
親から実家を相続したものの、
「この家、かなり古いけれど大丈夫なのだろうか?」
「誰も住んでいないけれど、このまま残しておいていいのだろうか?」
「売るべきなのか、壊すべきなのか、それともリフォームして使うべきなのか?」
このように悩まれる方は少なくありません。
相続した実家について考えるとき、相続税や名義変更などの手続きに目が向きがちです。
しかし、もう一つ忘れてはいけないのが、建物そのものの安全性です。
特に古い木造住宅の場合、「どの時期の耐震基準で建築されたのか」を確認することは、今後その家をどうするか考えるうえで重要なポイントになります。
今回は、相続した実家をお持ちの方に向けて、1981年の「新耐震基準」、2000年の木造住宅に関する基準変更、そして実際に耐震基準を確認する方法について解説します。
1.相続した実家は、まず「耐震基準」を確認しましょう
実家を相続すると、まず相続税の申告や不動産の名義変更など、期限のある手続きに意識が向きます。
もちろん、これらは重要です。
一方で、手続きが一段落すると、今度は「相続した家をどうするのか」という問題が出てきます。
誰も住まないのであれば、空き家として管理しなければなりません。
建物が古くなれば修繕費が必要になることもありますし、将来的に売却や解体を検討することになるかもしれません。
そこで最初に確認しておきたいのが、
「この建物は、いつの耐震基準で建築確認を受けたのか」
ということです。
ここで注意したいのが、単純に「築年数」だけを見て判断しないことです。
耐震基準を確認するときには、建物が完成した日ではなく、建築確認を受けた時期が重要になります。
2.新耐震基準とは?1981年6月1日が重要
耐震基準を確認するとき、まず覚えておきたいのが、
1981年(昭和56年)6月1日
という日付です。
一般的には、この時期を境に、
- 旧耐震基準
- 新耐震基準
という区分で建物を考えます。
1981年6月1日以降に建築確認を受けた建物は、新耐震基準に基づく建物として扱われます。
一方、それ以前に建築確認を受けた建物は、旧耐震基準に該当します。
ただし、ここで大切なのは、
「1981年に完成したかどうか」ではない
ということです。
基準となるのは、原則として建築確認を受けた時期です。
そのため、「築年数が○年だから旧耐震」とだけ考えるのではなく、建築確認に関する資料を確認する必要があります。
3.旧耐震基準と新耐震基準の違い
では、旧耐震基準と新耐震基準では何が違うのでしょうか。
簡単にいえば、建物が地震に対してどの程度耐えられるよう設計されているかという、耐震設計の考え方が異なります。
ただし、
「旧耐震=必ず倒壊する」
ということではありません。
反対に、
「新耐震=絶対に安全」
ということでもありません。
実際の建物の安全性は、建築時の基準だけで決まるものではありません。
建物の構造、劣化の状況、地盤、増改築の有無、過去の地震による損傷など、さまざまな要素が関係します。
したがって、耐震基準は「現在の建物の安全性を考えるための最初の手がかり」と考えるとよいでしょう。
4.木造住宅は「2000年」も重要なチェックポイント
ここで、木造住宅を相続した方には、もう一つ重要な年があります。
それが、
2000年(平成12年)
です。
2000年の建築基準法改正に伴い、木造住宅について、基礎や接合部、耐力壁などに関する規定が明確化されました。
そのため、木造住宅については、
「1981年以前か、以後か」
だけではなく、
「2000年より前か、以後か」
という点も確認しておくとよいでしょう。
国土交通省が公表した令和6年能登半島地震の最終取りまとめでは、調査対象となった木造建築物について、建築年代によって倒壊・崩壊の割合に違いが確認されています。
建築学会の調査では、倒壊・崩壊の割合は、新耐震以前の建築物で18.9%、新耐震以降2000年改正以前で4.7%、2000年改正以降で0.5%でした。
もちろん、これは能登半島地震における特定の調査対象についての数字であり、個々の住宅の安全性をこの数字だけで判断することはできません。
しかし、建物の建築時期を確認し、必要に応じて耐震診断を行うことの重要性を考えるうえで参考になる結果です。
5.能登半島地震から考える「古い実家」の耐震性
2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震では、多くの建築物が被害を受けました。
国土交通省は、国土技術政策総合研究所や建築研究所などとともに建築物の被害原因を分析し、2025年12月に最終取りまとめを公表しています。
その調査では、木造建築物について建築年代による被害状況の違いが確認されました。
また、国土交通省は、新耐震基準の木造建築物のうち、2000年以降の現行基準のものや耐震改修を行った建築物について、ほとんど倒壊・崩壊しなかったことが確認されたと説明しています。
このことからも、古い実家について、
「何十年も建っているから大丈夫だろう」
と考えるのではなく、
「現在の建物がどのような状態なのか」
を確認することが大切だと分かります。
6.実家の耐震基準はどうやって確認する?
では、実際に相続した実家の耐震基準を確認するには、どうすればよいのでしょうか。
まず探していただきたいのが、
建築確認通知書などの建築確認に関する書類
です。
親御さんが保管していた書類や、住宅を建築・購入した際の資料を確認してみましょう。
重要なのは、建築確認を受けた年月日です。
もし建築確認に関する書類が見つからない場合には、市区町村などの建築関係窓口に相談する方法があります。
自治体によって取り扱いは異なりますが、「建築基準法令による処分等の概要書」などから、建築確認に関する情報を確認できる場合があります。
なお、古い住宅では資料が残っていないこともあります。
その場合は、建築士などの専門家に相談し、耐震診断を受けることも検討しましょう。
7.「旧耐震だった=すぐ解体」ではありません
実家を調べたところ、旧耐震基準だった。
そう分かったとしても、
「では、すぐに解体しなければならない」
ということではありません。
旧耐震の住宅であっても、耐震診断を行った結果、一定の耐震性が確認される場合があります。
また、過去に耐震改修が行われているケースもあります。
逆に、新耐震基準の住宅であっても、建物の劣化状況などによっては、専門家による確認が必要になる場合があります。
つまり、
建築時の耐震基準と、現在の建物の安全性は同じものではありません。
まず建築時期を確認し、そのうえで必要に応じて現在の状態を調べる。
この順番が大切です。
8.耐震診断・耐震改修では自治体の制度も確認
旧耐震の住宅について耐震診断や耐震改修を検討する場合には、自治体の助成制度も確認してみましょう。
自治体によっては、
- 耐震診断
- 耐震改修
- 改修工事
などについて補助制度を設けている場合があります。
ただし、対象となる住宅や所有者、補助金額、申請期限などは自治体によって異なります。
特に注意したいのが、
「工事を始める前に申請が必要」
といった条件が設定されている場合があることです。
「補助金があるらしいから、とりあえず工事を始めよう」という判断は避け、事前に自治体へ確認しましょう。
国土交通省も、地方公共団体と連携して旧耐震基準の建築物の耐震化を進め、補助・税制・融資などによる支援を進めています。
9.耐震性を確認したら、「実家をどうするか」を考える
ここまで耐震基準について説明してきましたが、相続人にとって本当に重要なのは、その先です。
つまり、
「この家をこれからどうするのか」
という問題です。
例えば、
- 自分や家族が住む
- リフォームして使う
- 賃貸する
- 売却する
- 建物を解体して土地を活用する
- しばらく保有する
など、さまざまな選択肢があります。
そして、選択肢によって必要となる費用や税金も変わります。
例えば売却するのであれば、売却価格だけではなく、仲介手数料、測量費、解体費用などの諸費用に加えて、譲渡所得に関する税金や利用できる特例についても検討する必要があります。
一方、建物を残すのであれば、固定資産税だけでなく、修繕費や維持管理費、空き家の管理負担なども考えなければなりません。
だからこそ、相続した実家については、
「耐震性」+「今後の使い道」+「税金・費用」
を一緒に考えることが大切です。
10.まとめ|相続した実家は「耐震基準→現状→活用」の順番で考える
相続した実家が古い場合、最初から「売る」「壊す」と決める必要はありません。
まずは、次の順番で確認してみましょう。
STEP 1 建築確認の時期を確認する
建物の完成時期だけではなく、建築確認を受けた時期を確認します。
1981年6月1日を一つの重要な区切りとして、旧耐震・新耐震を確認します。
STEP 2 木造住宅なら2000年も確認する
2000年の基準変更も重要なチェックポイントです。
STEP 3 現在の建物の状態を確認する
必要であれば建築士などに相談し、耐震診断を検討します。
STEP 4 自治体の制度を確認する
耐震診断や耐震改修について、利用できる助成制度がないか確認します。
STEP 5 そのうえで、実家の今後を考える
「住む」「貸す」「売る」「解体する」などの選択肢を比較します。
相続は「受け取ったら終わり」ではありません
税理士として相続のご相談を受けていると、相続税の申告が終われば、相続についての問題も一段落したと感じる方がいらっしゃいます。
しかし、実家を相続した場合は、むしろそこから「この財産をどうするのか」という問題が始まることがあります。
古い実家をそのまま保有するのか。
修繕して使うのか。
売却するのか。
解体して土地として活用するのか。
それぞれにメリット・デメリットがあり、税金や費用も変わってきます。
だからこそ、相続した実家については、建物の安全性を確認したうえで、その後の資産管理まで含めて考えることが大切です。
「古いから、もう価値がない」と決めつける必要もありません。
反対に、「ずっと建っているから大丈夫」と放置するのもおすすめできません。
まずは、
「いつ建てられた家なのか」
「どの耐震基準なのか」
「現在どのような状態なのか」
を確認する。
そのうえで、ご家族にとって納得できる実家の活用方法を考えていきましょう。
相続した実家については、相続税だけでなく、耐震性、空き家管理、売却、解体、土地の活用など、いくつもの問題が関係します。
一つずつ整理していくことで、将来の選択肢も見えやすくなります。
※本記事は、耐震基準および相続した住宅についての一般的な情報をまとめたものです。個々の建物の安全性については、建築士等の専門家による確認が必要です。また、税制や自治体の助成制度にはそれぞれ要件・期限があります。具体的な判断をする際には、最新の制度をご確認ください。
【参考資料】
・国土交通省「令和6年能登半島地震における建築物構造被害の原因分析を行う委員会 最終とりまとめ」
・国土交通省「令和6年能登半島地震の建築物構造被害について(最終とりまとめ)」
・国土交通省「令和6年能登半島地震の建築物構造被害について」建築年代別の被害状況