
親が亡くなり、相続税の申告を進めることになったとき、気になるのが「相続税はいくらになるのか」ということではないでしょうか。
相続税は、亡くなった方が残した財産の金額だけで決まるわけではありません。
実は、亡くなった方に借入金や未払金などの債務があった場合、その金額を相続財産から差し引いて相続税を計算することができます。
これを「債務控除」といいます。
そして、意外と見落としやすいのが、亡くなった方が支払うべきだった所得税や住民税、固定資産税などの未納税金です。
こうした税金も、一定の要件を満たせば債務控除の対象になります。
今回は、相続税の債務控除の基本から、未納税金や準確定申告に伴う所得税の取り扱いまで、相続人の方に知っておいていただきたいポイントを解説します。
1.相続税の債務控除とは?相続財産から差し引ける債務の基本
相続税は、亡くなった方が残した財産の価額をもとに計算します。
ただし、財産の金額をそのまま課税対象にするわけではありません。
亡くなった方が死亡した時点で負担していた借入金や未払金など、一定の債務については、相続財産の価額から差し引くことができます。
これが債務控除です。
例えば、次のようなケースを考えてみましょう。
- 相続財産:8,000万円
- 借入金:1,000万円
- 未払金:200万円
この場合、債務控除を適用すると、課税価格の計算上、相続財産から1,200万円を差し引くことができます。
つまり、債務控除を適切に適用することで、相続税の負担を軽減できる可能性があります。
なお、実際の相続税計算では、葬式費用や各種の特例、基礎控除なども考慮する必要があります。
2.債務控除の対象になる借入金・未払金とは?
債務控除の対象になるのは、原則として亡くなった方が死亡した時点で負担していた債務のうち、確実と認められるものです。
代表的なものとして、次のようなものがあります。
① 借入金
金融機関からの住宅ローンや事業資金の借入金などです。
ただし、団体信用生命保険によって住宅ローンが完済される場合など、実際に債務が残らないものについては控除できません。
② 未払金
亡くなった方が生前に利用したサービスなどについて、死亡時点で支払いが済んでいないものです。
例えば、次のようなものが考えられます。
- 入院費や医療費の未払分
- 生前に購入した商品の未払代金
- 電気代や水道代などの未払分
- 事業上の買掛金や未払金
これらは、亡くなった方が本来負担すべきものであり、死亡時点で支払義務が確実に存在していれば、債務控除の対象となる可能性があります。
領収書や請求書、残高証明書などを確認し、控除できる債務を漏れなく把握することが大切です。
3.未納税金も相続税の債務控除の対象になる
債務控除の対象になるものとして、意外と見落としやすいのが未納税金です。
亡くなった方が負担すべきだった税金で、死亡時点において確実と認められるものは、原則として債務控除の対象になります。
例えば、次のような税金です。
- 所得税
- 住民税
- 固定資産税
- その他、亡くなった方が負担すべき公租公課
ここで重要なのは、税金の納付書や通知書が死亡時点で届いているかどうかだけで判断するわけではないという点です。
例えば、固定資産税や住民税のように、一定の日を基準として税額が決まる税金については、納税通知書がまだ届いていなくても、債務控除の対象になる場合があります。
相続開始後に届いた納税通知書だからといって、すぐに控除対象外と判断しないようにしましょう。
4.準確定申告で納付する所得税は控除できる?
亡くなった方に所得があった場合、相続人が「準確定申告」を行う必要があります。
準確定申告とは、亡くなった方の1月1日から死亡日までの所得について、相続人が代わりに行う確定申告のことです。
申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。
例えば、父親が3月に亡くなり、給与所得や不動産所得などがあった場合には、死亡日までの所得を計算し、必要に応じて所得税を申告・納付します。
この準確定申告によって所得税の納付が必要になった場合、その税額は原則として債務控除の対象になります。
つまり、相続税の申告では、準確定申告によって発生する所得税も忘れずに確認する必要があるのです。
相続税の申告準備と並行して準確定申告を進めることで、債務控除の漏れを防ぎやすくなります。
5.準確定申告で所得税の還付を受けた場合はどうなる?
一方、準確定申告を行った結果、所得税の還付を受けられるケースもあります。
例えば、亡くなった方が生前に給与や年金から所得税を源泉徴収されていたものの、年間の所得を計算すると税金を納め過ぎていた場合です。
この場合、還付される所得税は、亡くなった方が持っていた財産として相続税の課税対象になります。
ここは、納付の場合と還付の場合で取り扱いが異なるため、注意が必要です。
- 所得税を納付する場合:原則として債務控除の対象
- 所得税の還付を受ける場合:原則として相続財産に含める
同じ準確定申告でも、結果によって相続税の計算への影響が変わります。
準確定申告の結果を確認し、納付額だけでなく還付金の有無についても確認しておきましょう。
6.固定資産税は納税通知書が届く前でも控除できる?
不動産を所有していた方が亡くなった場合、固定資産税の取り扱いにも注意が必要です。
固定資産税は、原則として毎年1月1日時点の所有者に対して課税されます。
例えば、父親がX年3月に亡くなった場合、X年1月1日時点では父親が不動産を所有していたため、X年度の固定資産税は父親が負担すべき税金となります。
仮に、固定資産税の納税通知書が届くのが4月以降だったとしても、相続開始時点でその年の固定資産税に係る債務控除が認められる場合があります。
つまり、納税通知書がまだ届いていないからといって、債務控除を諦める必要はありません。
固定資産税の納税通知書が届いたら、対象となる年度や税額を確認し、相続税の申告に反映できるか検討しましょう。
7.住民税の未納額も債務控除できる?
住民税についても、亡くなった方が負担すべき税額であれば、一定の要件のもとで債務控除の対象になります。
住民税は、原則として前年の所得をもとに税額が計算されます。
そのため、亡くなった方が前年に所得を得ていた場合、死亡後に住民税の納税通知書が届くことがあります。
例えば、前年に給与所得や不動産所得があった父親が3月に亡くなった場合、前年の所得に対する住民税の納付が残っていることがあります。
このような住民税についても、亡くなった方が負担すべき債務として、債務控除の対象になる場合があります。
納税通知書が死亡後に届いた場合でも、死亡時点での納税義務や税額の確定状況などを確認することが大切です。
8.債務控除できるもの・できないものの違い
ここまで、債務控除の対象となる借入金や未納税金について説明してきました。
ただし、亡くなった方に関係する支払いであれば、すべて債務控除できるわけではありません。
重要なのは、死亡時点で亡くなった方自身が負担していた債務であり、確実と認められるかどうかです。
例えば、次のような違いがあります。
債務控除の対象となる可能性があるもの
- 金融機関からの借入金
- 生前の入院費や医療費の未払分
- 生前に利用したサービスの未払金
- 亡くなった方が負担すべき未納税金
- 準確定申告によって納付する所得税
原則として債務控除の対象にならないもの
- 墓地や墓石の購入代金など、非課税財産に関する一定の債務
- 相続人自身が負担することになった税金や費用
- 死亡後に相続人の判断で発生した支出
- 債務の存在や金額が確実と認められないもの
特に注意したいのが、相続人が支払った費用であれば何でも控除できるわけではないという点です。
支払いの時期だけでなく、誰が本来負担すべきものだったのかを確認する必要があります。
なお、葬式費用は債務控除とは別の取り扱いで、一定の範囲で相続財産から差し引くことができます。
9.債務控除を適用する際に相続人が注意したいポイント
債務控除を適切に適用するためには、相続人がいくつか確認しておきたいポイントがあります。
① 死亡日時点の債務を確認する
金融機関の借入金残高や未払金、税金の納付状況などを確認しましょう。
② 死亡後に届いた納税通知書も確認する
固定資産税や住民税などは、死亡後に通知書が届くことがあります。
死亡時点での債務に該当するかどうかを確認しましょう。
③ 準確定申告の結果を相続税申告に反映する
所得税の納付が発生するのか、還付になるのかによって取り扱いが異なります。
④ 支払いを証明できる資料を保管する
請求書、納税通知書、残高証明書、領収書などを整理しておくと、申告時の確認がスムーズになります。
また、債務控除を受けられる人にも一定の条件があります。
例えば、相続人が制限納税義務者に該当する場合などには、控除できる債務の範囲が異なることがあります。
誰が財産を取得し、誰が債務を負担するのかも確認しておきましょう。
10.相続税の申告前に確認したい債務と未納税金のチェックポイント
相続税の申告では、財産の調査に意識が向きがちです。
しかし、債務控除の確認も同じくらい重要です。
特に、次の項目は見落としがないか確認しておきましょう。
- 銀行や金融機関からの借入金はないか
- 生前の入院費や医療費の未払金はないか
- 電気代や水道代などの未払金はないか
- 準確定申告による所得税の納付は発生するか
- 固定資産税の未納額や当年度分の債務はないか
- 住民税の未納額はないか
- その他、亡くなった方が負担すべき公租公課はないか
相続税の申告・納税期限は、原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。
財産の調査だけでなく、債務や未納税金についても早めに確認しておくことが大切です。
まとめ:未納税金も確認して、適切な債務控除を
相続税の債務控除は、亡くなった方が死亡時点で負担していた借入金や未払金などを、相続財産から差し引くことができる制度です。
対象となるのは借入金だけではありません。
準確定申告によって納付する所得税や、固定資産税、住民税などの未納税金も、一定の要件を満たせば債務控除の対象になります。
特に、固定資産税や住民税は、死亡後に納税通知書が届くこともあるため、見落とさないように注意しましょう。
また、準確定申告で所得税の還付を受けた場合には、その還付金が相続財産に含まれるなど、納付と還付で取り扱いが異なります。
相続税の申告では、財産を正確に把握するだけでなく、差し引くことができる債務を漏れなく確認することも大切です。
「この税金は債務控除できるのだろうか?」
「死亡後に届いた納税通知書はどう扱えばよいのだろうか?」
このような疑問がある場合は、自己判断せず、個々の状況に応じて確認することをおすすめします。
相続税は、財産と債務の両方を正しく把握することが、適切な申告への第一歩です。
【参考情報】
・相続税法第13条(債務控除)
・相続税法第14条(控除する債務の範囲)
・相続税法第16条(相続税の基礎控除)
・相続税法第27条(相続税の申告)
・相続税法施行令第3条(控除する公租公課)
・国税庁「相続税の申告と納税」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm