
親や配偶者など、大切な家族が亡くなったとき、相続人にはさまざまな手続きが発生します。
その中で、意外と見落とされやすいのが「準確定申告」です。
亡くなった方が個人事業主だった場合や、不動産収入などがあった場合には、亡くなった年の所得について所得税の申告が必要になることがあります。
さらに、令和8年度税制改正によって所得税の基礎控除額が引き上げられます。
実は、この改正に伴い、令和8年12月1日以後にe-Taxで準確定申告を行う場合には、通常とは異なる入力方法に注意しなければなりません。
今回は、相続人の方に知っておいていただきたい準確定申告の基本と、令和8年からの変更点を解説します。
1.親が亡くなった後に必要となる「準確定申告」とは?
準確定申告とは、亡くなった方の所得について、相続人が代わりに行う所得税の確定申告です。
通常の確定申告は、本人が1年間の所得を計算して申告します。
一方、準確定申告では、亡くなった年の1月1日から死亡日までの所得を計算し、相続人が申告手続きを行います。
例えば、個人事業を営んでいたお父様が9月1日に亡くなった場合、原則として1月1日から9月1日までの事業所得などを計算することになります。
ここがポイント!
亡くなったからといって、その年の所得税の申告が不要になるわけではありません。
まずは、亡くなった方に確定申告が必要だったかどうかを確認することが大切です。
2.準確定申告が必要になるケースとは?
準確定申告が必要になるのは、亡くなった方が本来、所得税の確定申告をしなければならない方だった場合です。
例えば、次のようなケースが考えられます。
- 個人事業を営んでいた
- 不動産を貸して家賃収入を得ていた
- 給与所得以外に一定の所得があった
- 複数の勤務先から給与を受け取っていた
- 株式などの譲渡によって申告が必要な所得があった
ただし、所得の種類や金額、各種控除などによって判断は異なります。
「会社員だったから申告は不要」と決めつけず、亡くなった方の収入状況を確認しておきましょう。
また、申告によって税金が還付されるケースもあります。
3.準確定申告の期限はいつまで?
準確定申告には期限があります。
原則として、相続人が相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。
例えば、令和8年9月1日に亡くなったことを同日に知った場合、原則として令和9年1月1日が申告期限となります。
ただし、期限の末日が土曜日、日曜日、祝日などに当たる場合には、期限の取り扱いに注意が必要です。
相続手続きには、戸籍の収集や財産の調査など、時間がかかるものも少なくありません。
準確定申告についても、早めに必要書類を集め、余裕を持って準備することをおすすめします。
4.令和8年度税制改正で基礎控除はどう変わる?
令和8年度税制改正では、所得税の基礎控除額が引き上げられます。
基礎控除とは、所得税を計算する際に、所得から差し引くことができる控除の一つです。
今回の改正では、合計所得金額が2,350万円以下の場合について、基礎控除額が引き上げられ、最大104万円となります。
ただし、誰でも一律に104万円の控除を受けられるわけではありません。
実際の控除額は、合計所得金額などの条件によって異なります。
また、今回の改正規定は令和8年12月1日に施行されます。
そのため、令和8年分の所得税について準確定申告を行う相続人も、申告時期によっては改正後の基礎控除額を適用できることになります。
5.亡くなった方の準確定申告にも新しい基礎控除は適用できる?
ここが今回、特に注意していただきたいポイントです。
例えば、令和8年9月1日にお父様が亡くなり、相続人が同年12月1日以後に準確定申告を行うケースを考えてみましょう。
この場合、令和8年度税制改正後の基礎控除額の適用を受けることができます。
つまり、亡くなった方の所得税についても、改正後の基礎控除額を反映して申告できるということです。
ただし、注意したいのは、税制改正の内容と実際に使用する申告書の様式が必ずしも一致していない点です。
制度が変わったからといって、申告画面もすぐに新しくなっているとは限りません。
この点が、今回のe-Taxでの申告における重要な注意点となります。
6.e-Taxの申告書様式が古い場合はどうすればよい?
令和8年中、国のe-Taxソフトで使用する確定申告書の様式は、令和7年分の様式となっています。
そのため、令和8年度税制改正後の基礎控除額を通常の入力欄に入力できないという問題が生じます。
では、どうすればよいのでしょうか。
国税庁が示している方法に従って入力する必要があります。
具体的には、申告書第一表の「基礎控除」欄には金額を入力せず、初期表示されている「0,000」のままとします。
そして、「雑損控除」欄に改正後の基礎控除額を入力します。
通常の感覚では、基礎控除を雑損控除の欄に入力することに違和感があるかもしれません。
しかし、これは申告書の様式が改正に対応していないことに伴う特別な入力方法です。
自己判断で通常の入力欄を変更するのではなく、国税庁が案内する方法に従うことが重要です。
7.基礎控除を適用するための具体的な入力方法
令和8年12月1日以後に国のe-Taxソフトで準確定申告を行う場合、入力方法は次のとおりです。
【e-Tax入力時のチェックポイント】
① 申告書第一表を開く
② 「基礎控除」欄には金額を入力しない
③ 初期表示の「0,000」のままとする
④ 「雑損控除」欄に改正後の基礎控除額を入力する
⑤ 申告書等送信票(兼送付書)の「特記事項」欄に「基礎控除額●●●円」と入力する
入力上の重要な注意点
控除額を正しく反映させるためには、入力欄だけでなく、送信票への記載も必要です。
特に、特記事項欄への記載を忘れないようにしましょう。
なお、実際の入力にあたっては、国税庁の最新の案内やe-Taxの操作方法を確認するようにしましょう。
8.雑損控除もある場合はどう入力する?
もう一つ注意したいのが、実際に雑損控除も適用するケースです。
例えば、亡くなった方について雑損控除の対象となる損失があり、さらに改正後の基礎控除も適用する場合です。
この場合、「雑損控除」欄には、実際の雑損控除額と改正後の基礎控除額を合算した金額を入力することになります。
また、申告書等送信票(兼送付書)の「特記事項」欄には、それぞれの金額を分けて記載します。
【特記事項欄の記載例】
「雑損控除額●●●円、基礎控除額●●●円」
単純に合計額だけを記載するのではなく、それぞれの内訳が分かるようにしておくことがポイントです。
9.相続人が準確定申告で確認しておきたい5つのポイント
準確定申告を進める際には、次の5つを確認しておきましょう。
① 亡くなった方の所得を確認する
個人事業の売上、不動産収入、給与収入など、死亡日までの所得を整理します。
② 必要経費や各種控除を確認する
事業に関する経費や、適用できる所得控除などを確認します。
③ 準確定申告の期限を確認する
原則4か月以内という期限を意識し、早めに準備を進めましょう。
④ 税制改正の適用条件を確認する
令和8年度税制改正による基礎控除の引き上げについて、亡くなった方の所得金額などに応じた控除額を確認します。
⑤ e-Taxの入力方法を確認する
今回のように、申告書の様式と税制改正の内容が一致していない場合もあります。国税庁の最新情報を確認しながら入力しましょう。
もう一つ覚えておきたいこと
準確定申告と相続税の申告は別の手続きです。
相続税がかからない場合でも準確定申告が必要になることがありますので、混同しないように注意してください。
10.まとめ|相続手続きと準確定申告は早めの確認が大切
今回は、令和8年度税制改正による基礎控除の引き上げと、準確定申告におけるe-Taxの入力上の注意点について解説しました。
今回のポイントを整理すると、次の3つです。
- 令和8年度税制改正により、所得税の基礎控除額が引き上げられる
- 令和8年12月1日以後に提出する令和8年分の準確定申告では、改正後の基礎控除額が適用される
- 国のe-Taxソフトでは、基礎控除欄ではなく雑損控除欄を利用する特別な入力方法が必要となる
大切な家族が亡くなった後は、葬儀や財産整理、名義変更など、さまざまな手続きに追われることになります。
その中で税金の申告まで気を配るのは、相続人にとって大きな負担かもしれません。
しかし、準確定申告は期限があり、税制改正によって適用できる控除額が変わることもあります。
「うちの場合は申告が必要なのだろうか?」
「基礎控除の引き上げは適用できるのだろうか?」
「e-Taxの入力方法がよく分からない」
このような疑問がある場合は、早めに確認しておくことが大切です。
相続に関する手続きは、一つひとつ整理して進めることで、思わぬ申告漏れや手続き上のトラブルを防ぎやすくなります。
大切なご家族の財産を適切に引き継ぐためにも、所得税の準確定申告について、ぜひ一度確認してみてください。
【記事の監修・執筆】
税理士
相続に伴う税務手続きや所得税の申告について、専門家への早めの確認が大切です。