
親が老人ホームに入所すると、それまで暮らしていた実家が空き家になることがあります。
「誰も住んでいないなら、賃貸にして家賃収入を得た方がいいのでは?」
そう考えるご家族も多いでしょう。
しかし、相続税のことを考えると、実家を賃貸する前に一度確認しておきたい制度があります。
それが「小規模宅地等の特例」です。
老人ホームに入所したからといって、以前住んでいた自宅の土地について、直ちにこの特例が使えなくなるわけではありません。
一方で、老人ホーム入所後の実家の利用方法によっては、特例の適用に影響する場合があります。
今回は、老人ホームに入所した親の実家を「空き家のままにする」「賃貸する」「売却する」といった選択をするときに、相続人が知っておきたいポイントを解説します。
## 1.老人ホームに入った親の実家、貸しても大丈夫?
親が老人ホームに入所すると、実家をどうするかという問題が出てきます。
特に、
「固定資産税もかかる」
「庭の手入れが大変」
「誰も住んでいないのはもったいない」
といった理由から、賃貸を検討するケースがあります。
ただ、相続税の観点から見ると、「空き家だから、とりあえず貸す」という判断には注意が必要です。
なぜなら、将来の相続で「小規模宅地等の特例」を利用できるかどうかが、実家の土地の評価額や相続税に大きく影響する可能性があるからです。
## 2.小規模宅地等の特例とは?
小規模宅地等の特例とは、相続した土地について、一定の要件を満たす場合に、相続税を計算するときの土地の評価額を大幅に減額できる制度です。
亡くなった方が住んでいた自宅の土地についても、一定の要件を満たせば対象となります。
相続税では、土地の評価額が大きいほど税負担も大きくなるため、この特例を利用できるかどうかは、相続税を考えるうえで重要なポイントになります。
特に都市部など、土地の評価額が高い地域では、特例の適用の有無が相続税額に大きな違いを生むことがあります。
## 3.老人ホームに入ったら、小規模宅地等の特例は使えなくなる?
ここは誤解されやすいところです。
親が老人ホームに入所し、その後、自宅が空き家になったとしても、それだけで小規模宅地等の特例が使えなくなるわけではありません。
介護などのために老人ホームへ入所した場合には、一定の要件を満たすことで、入所前まで住んでいた自宅の土地について特例の対象となる可能性があります。
つまり、
「老人ホームに入った」
↓
「実家が空き家になった」
↓
「相続税の特例は使えない」
と単純に判断することはできません。
重要なのは、老人ホームへの入所の事情や、自宅がその後どのように利用されていたのかなど、個別の状況を確認することです。
## 4.「空き家だから特例が使えない」は誤解
今回のように、親が要介護状態となって特別養護老人ホームに入所し、その後、自宅を空き家のままにしているケースでは、一定の要件を満たせば特例を利用できる可能性があります。
したがって、
「2年間空き家だったから、もう特例は使えない」
というように、空き家になっていた期間だけで判断することはできません。
むしろ注意したいのは、空き家になった後に、その家をどのように使ったのかという点です。
## 5.「空き家がもったいないから賃貸」が要注意
特に注意したいのが、老人ホーム入所後に実家を第三者へ賃貸するケースです。
「誰も住んでいないのだから、賃貸して家賃収入を得よう」
という考え方は自然です。
しかし、老人ホーム入所後の自宅を他人に賃貸するなど、利用状況を変更した場合には、小規模宅地等の特例の適用に影響する可能性があります。
そのため、実家を賃貸することを考えている場合には、
「家賃がいくら入るか」
だけではなく、
「将来の相続税にどのような影響があるか」
まで確認してから判断することが大切です。
## 6.賃貸以外の使い方にも注意
注意が必要なのは、第三者への賃貸だけではありません。
老人ホーム入所後の実家について、
・店舗として利用する
・事務所として利用する
・第三者が居住する
・その他の用途に変更する
など、利用状況を変える場合には、小規模宅地等の特例への影響を確認する必要があります。
「誰が使っているのか」
「どのような目的で使っているのか」
「いつからその状態になったのか」
といった事実関係が重要になります。
実家の活用を始める前に、相続税への影響を確認しておきましょう。
## 7.相続税はいくら変わる?まず土地の評価額を確認
実家をどうするか考えるとき、まず確認したいのが土地の評価額です。
例えば、土地の評価額が比較的低ければ、小規模宅地等の特例による相続税への影響もそれほど大きくないかもしれません。
一方、土地の評価額が高い場合には、特例を利用できるかどうかによって、相続税額が大きく変わる可能性があります。
そのため、
「とりあえず貸す」
「とりあえず売る」
「とりあえず空き家にしておく」
と決める前に、一度相続税を試算してみることをおすすめします。
## 8.「相続税が安くなる方法」が家族にとって正解とは限らない
ここで大切なのは、相続税だけを見て判断しないことです。
小規模宅地等の特例を利用するために、実家を長期間空き家のまま維持することが、必ずしもご家族にとって最善とは限りません。
空き家を維持するには、
・建物の老朽化
・庭や敷地の管理
・防犯対策
・固定資産税
・修繕費
・近隣への配慮
など、さまざまな負担があります。
特に相続人が遠方に住んでいる場合には、「誰が実家を管理するのか」が大きな問題になることもあります。
相続税を減らすことだけを目的にすると、別のところで家族の負担が増えてしまうこともあります。
## 9.実家は「空き家・賃貸・売却」のどれがいい?
老人ホーム入所後の実家については、次のような順番で検討すると整理しやすくなります。
① 親が老人ホームへ入所した理由を確認する
② 老人ホーム入所前後の実家の利用状況を整理する
③ 誰が相続人になるのか確認する
④ 実家の土地・建物の評価額を確認する
⑤ 小規模宅地等の特例を利用できる可能性を確認する
⑥ 空き家・賃貸・売却、それぞれのメリットとデメリットを比較する
⑦ 相続税だけでなく、管理費用や家族の負担も含めて判断する
特に重要なのは、⑤を確認する前に、賃貸や売却を先に決めてしまわないことです。
実家の利用方法を変更した後では、選択肢が狭くなる可能性があります。
## 10.実家を貸す前に、相続税への影響を確認しましょう
老人ホームに入所した親の実家は、「誰も住んでいないから、早く活用した方がいい」と考えがちです。
しかし、相続税の面では、その実家が将来の相続財産になることを忘れてはいけません。
一定の要件を満たせば、老人ホーム入所前まで住んでいた自宅の土地について、小規模宅地等の特例を利用できる可能性があります。
一方で、入所後に実家を賃貸するなど、利用方法を変更すると特例の適用に影響する可能性があります。
だからこそ、実家を「貸す」「売る」「空き家のまま維持する」と決める前に、一度、相続税への影響を確認しておくことが大切です。
税理士としてご相談を受けていると、「もっと早く相談しておけばよかった」と感じるケースがあります。
実家の活用方法を決めてから相続税を考えるのではなく、
「この家をどうするか決める前に、相続税への影響を確認する」
という順番を意識していただきたいと思います。
相続税が一番安くなる方法が、必ずしもご家族にとって一番良い方法とは限りません。
税金だけでなく、家の管理、将来の売却、家族の負担まで含めて、納得できる選択肢を考えることが大切です。
「親が老人ホームに入ったけれど、実家をどうしたらいいのかわからない」
そんな場合は、賃貸や売却を決める前に、まず現在の状況で小規模宅地等の特例を利用できる可能性があるのか、確認してみてはいかがでしょうか。
※小規模宅地等の特例には細かな適用要件があります。老人ホームへの入所理由、自宅の利用状況、相続する方の状況などによって取り扱いが異なる場合があります。実際の相続については、個別の事情を確認したうえで判断する必要があります。
【参考情報】
国税庁
「老人ホームへの入所により空家となっていた建物の敷地についての小規模宅地等の特例」