
「もう返ってこないかもしれないお金なのに、相続税の対象になるのですか?」
親族が経営する会社へ貸し付けたお金について、このような相談を受けることがあります。
特に中小企業では、経営者個人や親族が会社を支えてきた結果、多額の貸付金が残っているケースも少なくありません。
しかし、「回収できそうにない貸付金だから相続財産にならない」と考えるのは危険です。
今回は、返済が滞っている貸付金の相続税上の取扱いと、生前に債権放棄を行う際の注意点について解説します。
## 貸付金は原則として相続財産になる
相続税は、亡くなった方が死亡時に保有していた経済的価値のある財産に対して課税されます。
対象となる財産には、
・土地・建物
・預貯金
・有価証券
・生命保険金(一部)
・貸付金
・事業用財産
などが含まれます。
そのため、たとえ返済が滞っていたとしても、貸付金という「債権」が存在する限り、原則として相続財産に含まれます。
よくある誤解として、
「会社の業績が悪いから価値はゼロだろう」
という考えがありますが、税務上はそう単純ではありません。
## 回収できない貸付金は評価から除外できる場合がある
もっとも、すべての貸付金が額面どおり評価されるわけではありません。
相続税の財産評価基本通達では、回収が不可能または著しく困難と認められる場合には、その部分を評価から除外できるとされています。
例えば次のようなケースです。
### ① 会社が法的整理手続に入っている場合
・会社更生手続開始
・民事再生手続開始
・破産手続開始
・特別清算開始
などの事実がある場合です。
### ② 事業を廃止または長期間休業している場合
業況不振などにより、
・事業を廃止している
・6か月以上休業している
場合も対象となる可能性があります。
### ③ 債権カットなどが正式に決定されている場合
再生計画や債権者間協議などにより、
・債務の一部免除
・返済の大幅な繰延べ
・長期分割返済
が正式に決定しているケースです。
つまり、「返ってこない気がする」という感覚ではなく、客観的に回収困難であることを示せるかどうかが重要になります。
## 生前に債権放棄すれば相続税はなくなるのか?
では、
「相続税の対象になるなら、生前に貸付金を放棄してしまえばよいのでは?」
と考える方もいらっしゃいます。
しかし、ここには大きな注意点があります。
### 会社側には受贈益が発生する
債権放棄をすると、会社から見れば借金がなくなったことになります。
そのため、その金額は原則として受贈益(利益)として計上されます。
会社の財務内容によっては法人税の問題が発生する可能性があります。
## 株主への「みなし贈与」が問題になることも
さらに注意したいのが株価への影響です。
債権放棄によって会社の純資産が増加すると、自社株の評価額が上昇することがあります。
その結果、会社の株主が利益を受けたとみなされ、
「みなし贈与」
として贈与税の課税対象になる可能性があります。
特に親族経営の会社では、
・父が会社へ貸付
・子が株主
という構図が少なくありません。
この場合、債権放棄による利益が実質的に子へ移転したと判断されるリスクがあります。
## 相続人間のトラブルにも注意
税金以外にも見落としやすい問題があります。
それは相続人間の公平性です。
例えば、
「長男の会社だけを助けるために父が債権放棄した」
と他の相続人が感じれば、
・特別受益
・遺産分割
・遺留分
などの争いに発展する可能性があります。
相続対策として行ったつもりが、かえって家族間の紛争を招いてしまうケースもあります。
## 税理士の視点から
中小企業の相続では、「会社への貸付金」が思わぬ相続税リスクになることがあります。
特にオーナー企業では、
・貸付金
・役員借入金
・自社株
が密接に関係しているため、単独で判断することは危険です。
また、債権放棄は税務だけでなく、会社法・相続法・株価評価にも影響を及ぼします。
「どうせ返ってこないお金だから」
という感覚で処理するのではなく、
・本当に回収不能なのか
・貸付金評価を減額できるのか
・債権放棄以外の方法はないのか
を専門家と一緒に検討することが重要です。
まとめ
返済が滞っている貸付金であっても、原則として相続財産に含まれます。
ただし、法的整理や事業停止など客観的に回収困難と認められる場合には、評価額を減額できる可能性があります。
また、生前の債権放棄は相続税対策になるとは限らず、
・会社の受贈益課税
・株主へのみなし贈与
・相続人間のトラブル
など新たな問題を生むこともあります。
相続と事業承継が絡む貸付金問題は、早めの準備と専門家への相談が何より大切です。