「相続対策として賃貸アパートを購入しよう」
「現金で持っているより、不動産に変えたほうが相続税を抑えられるのでは?」
これまで、こうした考え方で貸付用不動産を活用した相続対策を検討されてきた方もいらっしゃると思います。
ところが、令和8年度税制改正を受け、貸付用不動産の相続税評価について見直しが行われる予定です。
国税庁は9月18日、「貸付用不動産の評価について」の通達案を公表しました。
今回の見直しでは、特に「相続や贈与の前5年以内に取得した貸付用不動産」が重要なポイントになります。
今回は、国税庁が公表した通達案をもとに、相続人の方が知っておきたい貸付用不動産の新しい評価ルールについて解説します。
【1.令和9年1月1日以後の相続・贈与から新しい評価方法へ】
今回の見直しで最初に押さえておきたいのが、適用時期です。
新たな評価方法は、令和9年1月1日以後の相続、遺贈または贈与について適用される予定です。
つまり、令和9年以降に相続や贈与が発生する方は、貸付用不動産を所有している場合、その取得時期などを確認しておく必要があります。
特に重要なのが、
「課税時期前5年以内」
という期間です。
【2.相続前5年以内に取得した貸付用不動産が対象に】
通達案では、一定の貸付用不動産について、新たな評価方法を設けています。
具体的には、
・土地及び土地の上に存する権利
・家屋及びその附属設備または構築物
のうち、課税時期前5年以内に対価を伴う取引によって取得または新築された貸付用不動産が対象となります。
つまり、相続や贈与の直前5年以内に購入・新築した賃貸用不動産については、これまでと同じ感覚で評価できるとは限りません。
相続対策を検討する場合には、「何を買うか」だけでなく「いつ取得するのか」も重要になります。
【3.そもそも「貸付用不動産」とは?】
ここでいう貸付用不動産は、単に「アパートだけ」という意味ではありません。
通達案では、
・全部または一部が借家権の目的となっている家屋
・その家屋とともに賃貸されている附属設備や構築物
・その家屋の敷地として使用されている宅地
・宅地の上に存する権利
・それらとともに賃貸されている土地等
などが貸付用不動産として定義されています。
そのため、賃貸アパートや賃貸マンションなどを所有している場合には、自分の所有する不動産が今回の対象に該当するのかを確認することが重要です。
【4.原則は「通常の取引価額」で評価】
今回の通達案で大きく変わるポイントが評価方法です。
課税時期前5年以内に取得等された一定の貸付用不動産については、原則として、相続や贈与の課税時期における「通常の取引価額」により評価するとされています。
これは、従来の相続税評価額を前提に相続対策を考えていた方にとって、非常に重要なポイントです。
「購入した不動産だから、相続税評価額は購入価格よりかなり低くなるだろう」
と単純に考えるのではなく、今回の新しい評価ルールの対象になるかどうかを確認する必要があります。
【5.取得価額をベースに評価できる場合もある】
ただし、すべてのケースで通常の取引価額そのものによって評価するわけではありません。
通達案では、貸付用不動産の取得価額が、取得等の時点における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、取得価額をベースに一定の調整を加えた金額によって評価することができるとされています。
具体的には、
土地等については、
「取得価額 × 地価変動率 × 80%」
という考え方になります。
また、家屋等については、
「取得価額-償却費の額の合計額または減価の額」
をベースとして、その80%相当額で評価できる仕組みが示されています。
つまり、取得時の価格だけを見るのではなく、その後の地価変動や建物の減価なども考慮して評価することになります。
【6.「5年以内に買ったら必ず対象」ではない】
ここで注意したいのが、
「5年以内に買った不動産はすべて新しい評価方法になる」
というわけではないことです。
通達案では、課税上弊害がないと考えられる一定のケースについて、新しい評価方法の対象から除外することも示されています。
例えば、
・収用等に伴って取得した土地等や家屋等
・交換処分等に伴って取得した土地等や家屋等
・換地処分等に伴って取得した土地等や家屋等
・一定の固定資産の交換によって取得した土地等や家屋等
・一定の事業用資産の買換えによって取得した土地等や家屋等
などです。
したがって、「取得から5年以内かどうか」だけで判断するのではなく、取得の経緯まで確認する必要があります。
【7.増築・改築や新築にも注意】
今回の通達案では、増築や改築についても一定の取り扱いが示されています。
課税時期前5年以内に家屋等の増築または改築が行われた場合、その増築・改築部分についても一定の取り扱いがあります。
また、通達制定日までに新築された家屋等についても、一定のケースでは新たな評価方法の対象から除外されることが示されています。
相続対策として賃貸住宅を購入する場合だけでなく、
「すでに持っている賃貸物件に大規模な改修を行った」
といったケースについても、取得時期や工事の内容を確認しておく必要があります。
【8.非上場株式の評価には、この新しい評価方法を適用しない】
もう一つ重要なポイントがあります。
今回の新しい貸付用不動産の評価方法は、純資産価額方式などによる非上場株式の評価において、評価会社が所有する土地等や家屋等の評価には適用されないとされています。
つまり、個人が所有する貸付用不動産の相続税評価と、会社が所有する不動産を含めた非上場株式の評価では、今回の通達案の適用関係が異なります。
法人オーナーの方が相続対策を検討する場合には、個人所有の不動産だけを見るのではなく、自社株の評価まで含めて考える必要があります。
【9.相続人が今から確認しておきたいこと】
今回の改正を踏まえると、貸付用不動産を所有している方や、これから取得を検討している方は、次の点を確認しておくことをおすすめします。
① その不動産が「貸付用不動産」に該当するか
② 取得・新築したのはいつなのか
③ 相続や贈与の課税時期から5年以内に取得したものなのか
④ 取得価額はいくらだったのか
⑤ 取得時の通常の取引価額と取得価額がどの程度一致しているのか
⑥ 増築・改築などを行っていないか
⑦ 特例などによる取得に該当しないか
⑧ 個人所有なのか、法人所有なのか
特に相続対策として最近購入した不動産がある場合には、取得時の契約書や売買代金、工事費などの資料を整理しておくとよいでしょう。
【10.まとめ|「相続対策だから不動産」ではなく、取得時期まで考える】
今回の国税庁の通達案で、貸付用不動産の相続税評価について大きな見直しが予定されています。
特に重要なのは、
「課税時期前5年以内に取得等された一定の貸付用不動産」
です。
こうした不動産については、原則として課税時期における通常の取引価額で評価することとされています。
一方、取得価額が取得時の通常の取引価額に相当すると認められる場合には、取得価額に地価変動や減価などの調整を行った金額の80%相当額で評価できる仕組みも示されています。
今回の見直しによって、相続対策として不動産を取得する場合には、
「不動産なら何でも相続税評価額が下がる」
という考え方ではなく、
「いつ取得したのか」
「どのような不動産なのか」
「いくらで取得したのか」
「どのような目的で取得したのか」
まで確認することが、これまで以上に重要になります。
相続対策は、税金だけを見て決めるものではありません。
不動産そのものの収益性、借入金、将来の修繕費、相続後の管理、そして相続人の方が本当にその不動産を引き継ぎたいのか。
こうした点を含めて総合的に考えることが大切です。
特に、これから賃貸不動産の購入を検討している方や、すでに相続対策として購入した不動産をお持ちの方は、今回の通達案によって評価がどう変わる可能性があるのか、早めに確認しておくことをおすすめします。
なお、今回紹介した内容は国税庁が公表した「通達案」に基づくものです。
意見公募期間は令和8年10月18日17時までとされているため、最終的な通達の内容については、今後の公表資料を確認する必要があります。