
「相続税って、よほど財産が多い人にしかかからないんですよね?」
相続のご相談を受けていると、こうした質問をいただくことがあります。
確かに以前は、相続税というと「一部のお金持ちのための税金」というイメージが強かったかもしれません。
しかし、現在はそうとも言い切れません。
財務省が公表した「相続税の課税状況の推移」によると、令和6年の死亡者数は160万5,378人。
そのうち、相続税の課税件数は16万6,730件で、死亡者数に対する割合は10.4%でした。
単純にいえば、亡くなった方のおよそ10人に1人について、相続税の課税が発生した計算です。
では、この数字を私たちはどう受け止めればよいのでしょうか。
1.令和6年の死亡者数は160万人を突破
まず注目したいのが、死亡者数です。
令和6年の死亡者数は160万5,378人となり、初めて160万人台を超えました。
日本では今後も高齢化が進み、いわゆる「多死社会」が本格化していくと考えられています。
つまり、これからの10年間、相続は決して珍しい出来事ではありません。
ご自身が相続人になるケースも、今まで以上に身近な問題になってくるでしょう。
「まだ元気だから大丈夫」
「相続のことを考えるのは、もう少し先でいい」
と思っているうちに、突然相続が発生することもあります。
だからこそ、相続人になる可能性がある方も、基本的な知識を持っておくことが大切です。
2.相続税の課税件数は16万6,730件
令和6年の相続税の課税件数は16万6,730件でした。
死亡者数160万5,378人に対する割合は10.4%です。
この数字だけを見ると、
「10人に1人なら、かなり多いのでは?」
と感じるかもしれません。
一方で、ここで注意していただきたいことがあります。
「10人に1人」というのは全員に同じ確率で相続税がかかる、という意味ではありません。
相続税がかかるかどうかは、亡くなった方の財産の状況や法定相続人の数、基礎控除、各種の特例などによって変わります。
したがって、この10.4%という数字は、「相続税が自分にもかかるかもしれない」と考えるきっかけとして捉えるのがよいでしょう。
3.相続税の平均納付額は1,948万円
令和6年の相続税について、被相続人1人当たりの納付税額は1,948万円でした。
かなり大きな金額です。
ただし、これはあくまで全体の平均です。
「うちも1,948万円を払うことになるの?」
と心配する必要はありません。
家庭によって財産の内容や相続人の人数などは大きく異なるため、平均値をそのまま自分の家庭に当てはめることはできません。
ここで大切なのは、相続税の「金額」だけではありません。
相続が発生したときに、
「税金を払うためのお金をどう用意するのか」
という問題も考えておく必要があります。
4.相続税収は3兆2,487億円
令和6年の相続税収は3兆2,487億円でした。
これだけの規模の税金が、毎年相続によって発生しています。
相続税は、単に「財産をたくさん持っている人だけが気にする税金」と考えるよりも、財産を次の世代へ引き継ぐときに関係する税金として理解しておく方がよいでしょう。
特に、親が不動産を所有している場合などは注意が必要です。
「預金はそれほどないから大丈夫」
と思っていても、自宅や土地などの不動産を含めると、財産全体の金額が大きくなることがあります。
5.課税価格1億円以下が全体の60.1%
今回の統計で、個人的に特に注目したいのがこの数字です。
課税価格が1億円以下の件数が、全体の60.1%を占めています。
つまり、相続税の対象となったケースの中でも、課税価格が1億円以下というケースが過半数を占めています。
もちろん、「課税価格1億円以下なら相続税が必ずかかる」という意味ではありません。
また、課税価格と、相続税の計算上の最終的な課税対象額を同じものとして考えることもできません。
重要なのは、
「相続税がかかる家庭=何億円、何十億円もの財産を持っている家庭」とは限らない
ということです。
自宅の土地・建物、預貯金、生命保険、有価証券などを合わせて考えると、思っていた以上の財産額になることがあります。
6.課税価格5億円以下なら97.1%
さらに、課税価格が5億円以下の件数を見ると、全体の97.1%に達します。
逆にいえば、5億円を超えるケースは2.9%です。
この数字からも、相続税について考える際に「超富裕層だけの話」と決めつけないことが大切だと分かります。
例えば、
「うちは普通の家庭だから」
「親の財産は自宅と預金くらいだから」
という場合でも、まず財産を一度すべて洗い出してみることをおすすめします。
相続では、普段あまり意識していない財産が見つかることもあります。
7.5億円超は2.9%なのに、納付税額は48.7%
一方で、興味深い数字もあります。
課税価格5億円超の件数は全体の2.9%ですが、その納付税額は全体の48.7%を占めています。
つまり、件数としては少数でも、財産規模が大きくなると相続税の負担額も非常に大きくなるということです。
こうしたご家庭では、相続が発生してから対応するのではなく、生前から相続について考えておくことが非常に重要になります。
特に、
・不動産が多い
・会社や事業を経営している
・複数の金融資産を持っている
・相続人が複数いる
といった場合には、財産を「いくら持っているか」だけではなく、「誰に、どのように引き継ぐか」まで考えておく必要があります。
8.相続人がまず確認したい4つの財産
では、相続人の立場になったら、何から始めればよいのでしょうか。
まずは、次の4つを整理してみてください。
①不動産
自宅、土地、賃貸物件、山林などです。
不動産は金額が大きくなりやすい一方、預金のように簡単に分けることができません。
②預貯金・有価証券
銀行預金だけでなく、株式、投資信託なども確認します。
③生命保険など
生命保険金については、相続税の計算上、一定の非課税枠が設けられている場合があります。
契約内容を確認しておきましょう。
④借入金などの債務
財産だけでなく、住宅ローンや借入金などの債務も確認します。
相続では「財産を探す」ことに目が向きがちですが、債務の確認も非常に重要です。
9.相続対策は「節税」だけではありません
「相続対策」というと、
「どうすれば相続税を安くできるの?」
という話になりがちです。
もちろん、税負担を適正に抑えることは大切です。
しかし、税理士として相続のご相談を受ける際に、それと同じくらい重要だと感じるのが、**「財産をどう分けるのか」**という問題です。
例えば、財産の大部分が自宅不動産だった場合。
相続人が3人いても、自宅を3等分することは簡単ではありません。
「税金は安くなったけれど、相続人同士でもめてしまった」
という結果では、安心できる相続とはいえません。
相続対策では、
節税・分けやすさ・納税資金
この3つをバランスよく考えることが大切です。
10.「うちは大丈夫」と思う前に、財産を一覧にしてみよう
今回の令和6年のデータから、私が相続人の方にお伝えしたいのは、
「相続税は、一部のお金持ちだけの問題だと決めつけないでください」
ということです。
死亡者数は160万人を超え、相続税の課税件数は16万6,730件。
課税割合は10.4%でした。
もちろん、この数字だけで「自分の家庭にも相続税がかかる」と判断することはできません。
しかし、
「もしかしたら関係するかもしれない」
と考えるには十分な数字ではないでしょうか。
まずは、親や配偶者など、将来相続が発生する可能性のあるご家族の財産を、一度一覧にしてみることをおすすめします。
預金はいくらあるのか。
不動産はどこにあるのか。
株式や投資信託はないか。
生命保険には加入しているか。
借入金は残っていないか。
これらを把握するだけでも、相続への備えは大きく変わります。
そして、財産が整理できたら、次に「相続税がかかる可能性があるのか」「誰が何を相続するのがよいのか」を考えていきます。
相続は、実際に発生してからでは時間的な余裕がありません。
だからこそ、元気なうちに準備しておくことが大切です。
税理士としては、単に「相続税をいくら減らせるか」だけではなく、相続人の皆さんが、その後も安心して生活できる財産の引き継ぎ方を一緒に考えることが大切だと考えています。
「うちの場合、相続税はかかるのかな?」
そう思ったら、まずは財産を一度一覧にしてみてください。
相続対策の第一歩は、節税方法を探すことではなく、**「わが家にどんな財産があるのかを知ること」**から始まります。
※本記事は、令和6年分の相続税の課税状況に関する公表資料等をもとにした一般的な情報提供を目的としています。実際の相続税額は、財産の内容、法定相続人の数、各種の控除・特例などによって異なります。個別の相続税については、税理士等の専門家にご相談ください。