
「父の相続がまだ終わっていないのに、母も亡くなってしまった」
相続の現場では、このようなケースが実際にあります。
一次相続の遺産分割がまとまらないうちに相続人が亡くなると、今度は二次相続が発生します。
しかも、その後に一次相続の遺産分割が成立すると、すでに申告した二次相続の相続税が「払いすぎ」になっている可能性があります。
では、この場合、納めすぎた相続税を取り戻すことはできるのでしょうか?
今回は、相続人の方が特に注意したい「二次相続の更正の請求」について、できるだけ分かりやすく解説します。
■ 1.まず知っておきたい「一次相続」と「二次相続」
例えば、父が亡くなり、母と子どもが相続人になったとします。
これが「一次相続」です。
ところが、父の遺産分割協議がなかなかまとまらないうちに、母が亡くなってしまったとします。
すると、今度は母について相続が発生します。
これが「二次相続」です。
このケースでは、
父の相続 → 一次相続
母の相続 → 二次相続
という2つの相続を整理する必要があります。
問題は、一次相続の財産がまだ正式に誰のものになるのか決まっていない状態で、二次相続の相続税申告をしなければならない場合があることです。
■ 2.一次相続が未分割なら、いったん法定相続分で申告することがある
相続税の申告期限までに遺産分割がまとまらない場合、未分割の財産については、原則として法定相続分などを基に相続税を計算して申告します。
その後、遺産分割が成立すれば、実際の取得内容に応じて税額を見直すことができます。
例えば、父の財産を母と子が2分の1ずつ取得する予定だったとしても、最終的な遺産分割で母が取得する財産が少なくなることがあります。
この場合、一次相続については、当初の申告より相続税が少なくなる可能性があります。
ここまでは比較的イメージしやすい話です。
しかし、母がすでに亡くなっている場合には、もう一つ問題が生じます。
■ 3.一次相続の遺産分割が二次相続の税額にも影響する
母が父の財産を取得した後に亡くなったのであれば、その財産は母の相続財産として子どもたちに引き継がれます。
つまり、一次相続で母が取得する財産の金額は、二次相続の相続税にも影響します。
ところが、二次相続の申告時点では、まだ一次相続の遺産分割が決まっていない。
そのため、二次相続の申告では、母が一次相続で取得する財産を法定相続分などに基づいて計算することがあります。
その後、一次相続の遺産分割が成立。
そして、母が実際に取得する財産が当初の計算より少なくなったとします。
すると、
「母が実際にはそんなに財産を取得していないのに、二次相続では多く取得した前提で相続税を払ってしまった」
という状態になる可能性があります。
ここが今回のポイントです。
■ 4.「相続税法32条」で二次相続を直せるとは限らない
一次相続の未分割財産について、後から遺産分割が成立した場合には、一定の要件のもとで相続税法32条による更正の請求を検討できます。
ただし、注意が必要です。
一次相続の遺産分割が成立したことで、二次相続の相続税が過大になったとしても、同じように相続税法32条で更正の請求ができるとは限りません。
令和7年10月29日の裁決では、このようなケースについて、二次相続は相続税法32条に基づく更正の請求の対象とはならないとされています。
つまり、
「一次相続の遺産分割が決まったから、二次相続も相続税法32条で税金を戻してもらえる」
と単純に考えることはできません。
■ 5.では、二次相続の税金は戻してもらえないの?
ここで重要になるのが「国税通則法23条」です。
一次相続の遺産分割が成立したことによって、二次相続の当初申告で計算した相続税が結果的に過大となった場合、個別の事情によっては、国税通則法23条に基づく更正の請求が認められる可能性があります。
ポイントは、二次相続の申告そのものに誤りがあったかどうかを、一次相続の遺産分割が確定した後の事情も含めて検討することです。
令和7年の裁決でも、当初申告に存在するとされる過誤の是正について、国税通則法23条による更正の請求が予定されている旨が示されています。
したがって、
「相続税法32条が使えないから、もう何もできない」
とは限りません。
■ 6.具体例で考えてみましょう
例えば、父が1億円の財産を残して亡くなったとします。
相続人は母と子どもです。
父の遺産分割が決まらないまま、母が亡くなりました。
母の二次相続について相続税を申告する際、父の財産について母が法定相続分を取得したものとして計算したとします。
ところが、その後、父の遺産分割協議が成立。
最終的には、母が父から取得する財産は法定相続分よりも大幅に少ないことになりました。
そうなると、母が実際に取得した財産も少なくなります。
結果として、
「二次相続の申告時に、母の財産を多く見積もって相続税を計算していた」
という状態になる可能性があります。
このような場合には、二次相続について国税通則法23条による更正の請求ができないかを検討することになります。
■ 7.「5年」という期限にも注意
更正の請求には期限があります。
国税通則法23条による更正の請求は、原則として法定申告期限から5年以内です。
相続税の申告は、申告した時点ですべて終わりとは限りません。
今回のように、後から一次相続の遺産分割が成立することで、二次相続の税額に影響が出るケースもあります。
そのため、
「昔の相続だからもう関係ない」
と判断するのは早いかもしれません。
特に、
・一次相続が未分割だった
・その相続人が途中で亡くなった
・その後、一次相続の遺産分割が成立した
という事情がある方は、一度申告内容を確認してみる価値があります。
■ 8.相続人が確認したい5つのポイント
心当たりがある方は、次の5点を確認してみてください。
① 一次相続の遺産分割は未分割のままになっていなかったか
② 一次相続の相続人が、遺産分割前に亡くなっていないか
③ 二次相続について相続税の申告をしているか
④ 一次相続の遺産分割が最終的にいつ成立したか
⑤ 二次相続の申告期限から5年以内か
特に重要なのが「日付」です。
相続税の更正の請求には期限があるため、資料を見つけたら、まず申告期限や遺産分割成立日を確認しましょう。
■ 9.相続税の「払いすぎ」は自動的には戻ってこない
相続税について、「後から計算が変わったら税務署が自動的に返してくれる」と思われる方もいます。
しかし、更正の請求は、納税者側から手続きを行う必要があります。
しかも、
「どの法律に基づいて請求するのか」
「更正の請求が認められる事情なのか」
「期限内なのか」
を確認しなければなりません。
今回のような一次相続と二次相続が絡むケースは、通常の相続よりも判断が難しくなります。
単純な計算ミスとは違い、相続全体の経緯を整理したうえで判断することが大切です。
■ 10.まとめ|一次相続と二次相続は「セット」で確認する
一次相続が未分割のまま二次相続が発生すると、相続税の計算は一気に複雑になります。
特に注意したいのが、
「一次相続の遺産分割が後から決まったことで、すでに申告した二次相続の相続税が過大になっていた」
というケースです。
この場合、相続税法32条による更正の請求の対象とはならないことがあります。
しかし、個別の事情によっては、国税通則法23条による更正の請求が認められる可能性があります。
そして、原則として5年という期限があります。
もし、
「父の相続が終わる前に母も亡くなった」
「一次相続は未分割のまま二次相続を申告した」
「その後、一次相続の遺産分割が決まった」
という状況に心当たりがあるなら、当時の相続税申告書や遺産分割協議書を一度確認してみてください。
相続税は、申告して納税したら終わりとは限りません。
後から事情が変わったことで、税額を見直せる可能性があります。
ただし、今回のようなケースは個別判断が必要です。
「自分の場合も該当するかもしれない」と思ったら、資料を揃えて税理士に相談することをおすすめします。