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相続した暗号資産と税金の滞納|改正徴収法で何が変わるのか税理士が解説

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2026.09.15

「家族が保有していた暗号資産を相続したけれど、税金の滞納があった場合はどうなるの?」

「暗号資産は、秘密鍵を本人しか知らなければ差押えられないの?」

暗号資産を相続した方にとって、こうした問題は決して他人事ではありません。

令和8年度税制改正では、個人が自ら管理している暗号資産のような「特定電子移転財産権」について、国税徴収法上の差押手続が見直されました。

ポイントは、令和9年4月1日以後、一定の暗号資産について、徴収職員の管理に移す方法による差押えが可能になることです。

これまで、本人が暗号資産を自己管理している場合には、「秘密鍵」が必要となるため、実務上、差押えを実行することが難しいケースがありました。

今回の改正は、この問題に対応するものです。

この記事では、相続人の方にも関係するポイントを中心に、できるだけ専門用語をかみ砕いて解説します。


1.暗号資産は税金を滞納すると差押えの対象になる?

暗号資産も財産である以上、一定の場合には差押えの対象になります

まず押さえておきたいのは、暗号資産だからといって税金の滞納処分から完全に守られるわけではないということです。

例えば、暗号資産の取引によって利益を得ていたにもかかわらず、必要な申告や納税をしていなかったとします。

税務調査によって申告漏れが判明し、追加の税金を納めることになったにもかかわらず、その後も納税しなければ、国税の滞納につながります。

通常、税金を滞納すると、国税当局は滞納者の財産を差し押さえるなどして徴収を行います。

問題となっていたのが、本人が暗号資産を自分で管理しているケースでした。


2.なぜ自己管理している暗号資産の差押えは難しかった?

「秘密鍵」がなければ暗号資産を自由に動かせない

暗号資産を保有する方法には、暗号資産交換業者、いわゆる取引所を介して管理する方法があります。

この場合、交換業者に対する債権を差し押さえることで、徴収につなげることが可能です。

一方、専用のアプリなどを利用して、本人が直接暗号資産を管理している場合があります。

このような「自己管理型」の暗号資産では、送金などの操作に「秘密鍵」が必要になります。

そのため、国税当局が暗号資産の存在を把握していても、実際に移転させるためには、秘密鍵を持っている本人の協力などが必要になるケースがありました。

つまり、

「財産があることは分かっている。でも、その財産を実際に動かすことが難しい」

という問題が生じていたわけです。


3.どんなケースが問題になっていた?

申告漏れが発覚しても、暗号資産を納税に充てないケース

例えば、暗号資産の取引によって大きな利益を得たものの、その所得を申告していなかったとします。

税務調査によって申告漏れが発覚すると、本来納めるべき税金に加えて、加算税などが発生することがあります。

その後、本人が保有している暗号資産を売却して納税するよう勧められても、

「今は暗号資産の価格が下がっているので、値上がりしてから売却したい」

といった理由で自主的な納税に応じないケースも考えられます。

従来は、このように本人が自己管理している暗号資産について、差押えを実効的に行うことが難しいという課題がありました。

今回の改正は、こうした課題への対応です。


4.令和9年4月から暗号資産の差押えはどう変わる?

徴収職員の管理に移す方法へ

令和8年度税制改正では、自己管理されている暗号資産などの「特定電子移転財産権」について、差押えの方法が見直されました。

令和9年4月1日以後は、原則として徴収職員の管理に移す方法によって差押えを行うことになります。

つまり、これまで問題となっていた「本人の協力がなければ暗号資産を動かせない」という状況に対して、法律上の手続を整備したということです。

徴収職員が自ら管理に移すことが難しい場合には、一定の権利者等に対して、特定電子移転財産権を徴収職員の管理に移すよう命じることも可能になります。

暗号資産についても、税金の滞納がある場合には、より実効性のある徴収が行われる仕組みになったと理解するとよいでしょう。


5.「秘密鍵を教えなければ大丈夫」という話ではなくなる?

改正後は命令に違反した場合の罰則にも注意

今回の改正で特に重要なのが、命令に違反した場合の罰則です。

正当な理由なく、特定電子移転財産権を徴収職員の管理に移す命令に違反した場合、

3年以下の拘禁刑若しくは250万円以下の罰金、またはその両方

が科されることになります。

さらに、この罰則は両罰規定の対象とされています。

つまり、単純に「暗号資産を自己管理しているから、税務署が手を出せない」と考えることはできなくなります。

暗号資産を保有している方は、税金の申告・納税をきちんと行うことが、これまで以上に重要になります。


6.相続人にも関係するの?

相続した財産だけでなく、被相続人の税金についても確認が必要

ここが相続人の方にとって重要なポイントです。

相続では、「財産を受け取る」という側面だけでなく、被相続人に税金の未納などがないかを確認する必要があります。

特に暗号資産は、一般的な預金や不動産と違って、どこにどれだけ保有されているのかを把握しにくい場合があります。

例えば、

  • 暗号資産交換業者の口座
  • 個人で管理しているウォレット
  • 複数のウォレット
  • 暗号資産の秘密鍵
  • 暗号資産に関する取引履歴

などが分散している可能性があります。

相続が発生したら、財産の有無だけでなく、その財産をどのように管理していたのかまで確認することが重要です。


7.相続した暗号資産を勝手に動かしてもいい?

相続では「誰の財産なのか」を整理することが先

相続した暗号資産については、まず相続財産として適切に把握する必要があります。

特に、被相続人が自己管理していた暗号資産の場合、「ウォレットが見つからない」「秘密鍵が分からない」「取引履歴が残っていない」といった問題が起きる可能性があります。

また、被相続人に税金の滞納があった場合には、相続財産の処分について慎重な確認が必要です。

相続人としては、

「暗号資産を見つけたから、とりあえず自分の口座へ移してしまおう」

と考えるのではなく、まず財産の内容、相続人、税金の状況などを整理することが大切です。

相続税だけでなく、被相続人の所得税やその他の税金についても確認しましょう。


8.暗号資産を相続したら、何を確認すればいい?

「どこにあるか」だけでなく「どう管理されているか」を確認

暗号資産を相続した場合、最低限、次のような情報を確認しておきたいところです。

① 暗号資産交換業者の口座

どの取引所・交換業者を利用していたのかを確認します。

② 自己管理型ウォレットの有無

取引所を介さず、自分で管理していた暗号資産がないか確認します。

③ 秘密鍵などの管理情報

暗号資産の管理に必要となる情報がどこに保管されているのかを確認します。

④ 取引履歴

取得時期、取得価格、売買履歴など、税務上必要になる資料をできるだけ確保します。

⑤ 税金の申告・納税状況

被相続人に暗号資産に関する申告漏れや税金の滞納がないか確認します。

相続では、財産を見つけるだけで終わりではありません。

「その財産について、税務上どのような問題が残っているのか」

まで確認することが大切です。


9.今回の改正で相続人が特に注意したいこと

今回の改正を、「税務署が暗号資産を簡単に取り上げられるようになった」とだけ理解するのは適切ではありません。

本質は、これまで実務上の課題があった自己管理型の暗号資産について、税金の滞納がある場合の徴収手続を明確化したことにあります。

相続人の立場から見ると、特に重要なのは、

「被相続人が暗号資産を保有していたか」

だけではありません。

「被相続人に税金の未納・滞納がなかったか」

も同時に確認することです。

暗号資産はデジタルデータであるため、家族が存在そのものを知らないケースもあります。

そのため、生前から財産の管理場所や取引履歴などを整理しておくことは、残された家族にとって非常に大きな助けになります。


10.相続人が今から準備しておきたいこと

暗号資産を相続する可能性がある方、あるいはご家族が暗号資産を保有している場合には、次の点を確認しておくと安心です。

① 暗号資産を保有しているか確認する

取引所だけでなく、自己管理型のウォレットについても確認します。

② 財産の管理場所を把握する

どこに保管されているのか、相続人が確認できるようにしておきます。

③ 取引履歴を保存する

暗号資産の税務では取引履歴が重要な資料になります。

④ 税金の申告・納税状況を確認する

暗号資産の利益について申告が適切に行われていたか確認します。

⑤ 相続が発生したら早めに専門家へ相談する

暗号資産は、相続税だけでなく所得税や滞納税の問題が絡むことがあります。

「相続した後に考えればいい」と先送りせず、早い段階で財産と税務関係を整理することが大切です。


まとめ|暗号資産の相続は「財産」と「税金」をセットで考える

令和8年度税制改正では、自己管理されている暗号資産などの「特定電子移転財産権」について、差押えの手続が見直されました。

令和9年4月1日以後は、徴収職員の管理に移す方法による差押えが可能となり、正当な理由なく命令に違反した場合には、拘禁刑や罰金などの罰則も設けられます。

この改正で大切なのは、「暗号資産だから差押えられない」という考え方をしないことです。

特に相続人にとっては、

暗号資産がどこにあるのか

どのように管理されているのか

被相続人に税金の未納・滞納がないか

という3点を確認することが重要です。

暗号資産は便利な一方で、相続の場面では「存在を把握しにくい」「管理方法が分からない」「取引履歴の確認が難しい」といった問題が起こりやすい財産でもあります。

相続税の計算だけを考えるのではなく、被相続人の税務関係まで含めて整理する。

これが、暗号資産を含む相続でトラブルを避けるための基本的な考え方です。

もしご家族に暗号資産を保有している方がいるのであれば、元気なうちに「どこで管理しているのか」「どのような暗号資産を持っているのか」「税務関係の資料はどこにあるのか」を確認しておくことをおすすめします。

相続は、財産を受け取る手続きであると同時に、故人の財産と税務を整理する手続きでもあります。

暗号資産のように特殊性のある財産ほど、早めの確認が安心につながります。