
公立学校の教職員のための相続がわかるブログ
このブログは拙著「公立学校の教職員のための相続がわかる本」
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をブログ用に再構成したものです。
9-1 生前贈与の基礎と教職員向け最適な活用方法
公立学校の教職員の方々は、安定した収入があり退職金や年金も見込めるため、将来の相続税負担に対して生前からの準備が重要となります。生前贈与は相続財産を減らし、結果として相続税の軽減につながる有効な方法の一つですが、制度の理解と適切な活用法を知ることがまず大切です。
生前贈与とは、本人が生きているうちに自分の財産を無償で譲り渡すことを言います。主に親から子どもへの贈与が多いですが、孫やその他の親族に対しても可能です。贈与税法に基づく「暦年課税制度」が基本で、1年間(1月1日から12月31日)に贈与を受けた財産が110万円以下であれば贈与税はかかりません。これを活用して、毎年コツコツと親族に財産を贈与するのが初心者にも始めやすい生前対策といえるでしょう。
教職員の皆様に特に推奨したいポイントは、平日は多忙でなかなか時間が作れないこともあるため、毎年の贈与計画を立てて着実に贈与を実施しやすい環境を整えることです。例えば、複数の子どもがいる場合は分散して年間110万円ずつ贈与し、累積で大きな財産移転を図ることが可能です。また、教育費や生活費の援助として贈与した場合でも、「相続時精算課税制度」を除いては、基礎控除の110万円の範囲内であれば条件を満たさず課税されません。
さらに、生前贈与では「贈与契約書」の作成が望ましいです。これは税務署から贈与の実態確認が入った際に有効な証拠書類となり、贈与事実の明確化によって不要なトラブル防止となります。教職員のご家庭では、家族間の信頼関係を尊重しつつも、書面での記録を残すことが将来の相続争いを防ぐポイントです。加えて、贈与資金の出所も明確にし、実際の振込履歴などを保存しておくことも重要です。
生前贈与は必ずしも全てを贈る必要はなく、贈与者(親)の生活に支障が生じない範囲で計画的に行うことが肝要です。過度な贈与は「生活費の不足」となり、逆に相続財産の減額計算で問題となることもあるため、適正なバランス感覚のもと専門家とも相談しつつ進めることが不可欠です。
また、多忙で税務手続きまで手が回らない場合は、生前贈与を代行して申告・記録管理を行う税理士の支援を受けることで、円滑な対策が可能となります。日々の教育現場の仕事と並行しながら、将来の子孫のために一歩ずつ生前対策を始めることが、大きな安心感につながるでしょう。
9-2 暦年贈与・相続時精算課税・生命保険を駆使した節税術
生前対策には暦年課税以外にも重要な制度として「相続時精算課税制度」と「生命保険の非課税枠活用」があります。これらは教職員の方々が賢く利用することで、相続税負担の軽減と手続きの円滑化に役立ちます。
まず、相続時精算課税制度は60歳以上の親または祖父母が18歳以上の子や孫に贈与した場合に、特別な税制上の優遇措置が受けられます。この制度では、非課税の基礎控除額は110万円あり、また、贈与ごとに限度額があるのではなく、非課税額を超えた合計額で2,500万円までは贈与税がかかりません。年単位で110万円ずつという暦年課税とは異なり、大きな額を一度に贈与したい場合に有効です。
ただし、相続時にこれまでの贈与額を相続財産に加算するため、実質的には相続税の前払い的な意味合いがあります。つまり、生前贈与を理由に将来の相続税が二重に発生しないよう計算上配慮されていますが、利用時は注意が必要です。特に贈与を受けた側の税務申告も要するため、専門家と十分に相談の上、計画的に決定することを推奨します。
教職員のご家庭では、複数の子や孫に渡したい財産があるケースでは、この制度を組み合わせて活用すると節税効果が高まります。例えば、暦年課税として毎年110万円ずつ贈与しつつ、場合によっては相続時精算課税で大きな額を先に移転させる計画的なアプローチが考えられます。
次に、生命保険の活用も相続税対策として有効です。生命保険契約においては、被相続人から相続人に対し、死亡保険金として支払われるお金について、一定金額までは相続税が非課税になります。具体的には法定相続人1人につき500万円が非課税枠として認められており、たとえば相続人が4人なら最大2,000万円までの死亡保険金が相続税計算上含まれません。
教職員は生命保険への加入率も高く、この制度を活用することで「遺された家族への確実な資金供給」と「相続税負担軽減」の両立を図れます。特に相続が発生した際の遺産分割で揉めやすい現金不足問題の解消や、手続きの簡便化にも寄与します。
また、一時払い終身保険や養老保険など、保険商品を組み合わせて生前に計画的に契約することで、贈与税対象外の資産形成も可能です。これにより相続開始時の課税対象となる財産総額を調整できるため、多面的に節税効果が期待できます。教職員の多忙な生活スタイルに合った保険商品の選択と、保険金受取人の明確化は専門家の助言を受けながら行うことが最善です。
前述の制度と合わせて贈与・保険戦略を練る際は、税務上のリスクや家族構成の変化にも注意が必要です。特に相続税軽減のつもりが被相続人の生活を圧迫しないように、生活資金の確保とのバランスを考慮して設計してください。
9-3 2024年以降の税制改正とその注意点
2024年(令和6年)以降、相続および贈与に関わる税制には重要な改正が段階的に実施されており、公立学校の教職員の皆様も最新情報を正確に押さえておく必要があります。これらの改正は生前対策の効果や申告内容に大きく影響します。
まず最も注目されるのは、生前贈与に関わる「持ち戻し期間」の延長です。これまでは、相続開始前3年間に行った暦年課税の贈与が相続財産に加算されていましたが、令和6年1月以降、段階的にこの期間が7年間に拡大されることが予定されています。この改正により、生前贈与の「早めの着手」がより重要となります。より長期間にわたって贈与履歴が相続税計算に影響するため、過去の贈与実績の管理・記録が今まで以上に必要となります。
もう一つの注目点は、相続時精算課税制度の非課税枠の新設です。現行の制度に加え、年間110万円までは非課税かつ将来の相続時に持ち戻しされない「非課税枠」が新設されました。これにより、毎年110万円を超えずに贈与分を行い、この枠内の贈与分については相続税の計算対象にならないメリットがあります。この新制度は、相続時精算課税制度の利用範囲を広げ、教職員の生前対策に柔軟性をもたらすものです。
しかし、これらの改正は複雑であり、一定の要件を満たす必要があるため、単に贈与を増やせば良いというわけではありません。例えば、持ち戻しの期間延長により、過去の贈与が遡って相続財産に加算された結果、課税額が増えるリスクもあるため、専門家による事前シミュレーションが不可欠です。
さらに、令和6年4月以降は相続登記の義務化も控えており、相続財産の名義変更への対応と合わせて、生前にきちんとした対策を講じておくことが教職員の安心につながります。登記義務化により遺産調査等も厳格化され、適切な生前贈与の記録保管も安心した相続手続のカギになります。
加えて、2024年以降の税制改正では、贈与税の実務的な申告方法や証憑の保存期間についても厳格化が進む可能性があります。教職員の皆様は、給与所得の安定を背景に節税意識が薄くなりやすいため、あらかじめ必要な申告と記録保管のルールを理解し、専門家の助言を早期から受けることをお勧めします。
これらの生前対策や税制改正への対応は、忙しい教職員の皆様にとっては専門的で複雑に感じられることが多いでしょう。しかし、専門税理士のサポートを得ながら、一つひとつ具体的に準備を進めることで、将来の不安を大幅に軽減し、大切なご家族への財産承継をスムーズに行うことが可能になります。前述の暦年贈与や相続時精算課税、生命保険活用とあわせて、生前対策に取り組むことを十二分にご検討ください。