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8.遺産分割協議と相続人の特定ポイント

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2025.09.25

公立学校の教職員のための相続がわかるブログ
このブログは拙著「公立学校の教職員のための相続がわかる本」
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をブログ用に再構成したものです。

8-1 法定相続人・法定相続分・遺産分割協議の流れと注意点
相続の基本的な仕組みを理解するためには、まず「法定相続人」と「法定相続分」を押さえる必要があります。法定相続人とは、法律で定められた相続権を持つ人たちのことを指し、亡くなった方(被相続人)の家族関係に応じて範囲が決まります。基本的な順位は、①配偶者は常に相続人となり、②子ども、③直系尊属(親や祖父母)、④兄弟姉妹の順番であり、それぞれが優先順位によって相続権を有します。また、「代襲相続」制度により、相続開始前に子どもや兄弟姉妹が亡くなっている場合でも、孫や甥姪が相続権を引き継ぐことがあります。

法定相続分は、法律で定められた法定相続人間の財産分配割合の目安であり、配偶者と子どもがいる場合は配偶者が1/2、子ども全体で残りの1/2を均等に分ける形が標準的です。ただし、この割合はあくまでも法定の基準であって、実際には遺言書による指定や相続人間の話し合い(遺産分割協議)によって変更可能です。

遺産分割協議は、遺言が無い場合や遺言に含まれない財産があるときに、相続人全員で財産の分け方を決める話し合いです。協議は相続人全員の合意が必要で、合意内容を記した「遺産分割協議書」は法的にも重要な書類となります。遺産分割協議書には具体的に誰がどの財産をどの割合で相続するかを明記し、相続人全員の実印が押印されることが原則です。この書類により、後日のトラブル防止や預貯金の名義変更、不動産登記が円滑に進みます。

教職員の方々が相続に直面する場合、忙しさから遺産分割協議を後回しにしがちですが、複数の相続人がいるならばできるだけ早期に協議を開始し、話し合いを円滑に進めることがその後のトラブル回避に直結します。また、法定相続人の範囲や法定相続分の考え方を正確に把握しておくことで、話し合いの土台となり、協議の進展に寄与します。

8-2 教職員世帯でよくある遺産分割トラブルと解決策
教職員家庭では、共働きが多く、また遺産に特有の財産構成があるため、遺産分割でよく見られるトラブルがいくつかあります。たとえば、教育関係の知識が豊富でも、法律や税金の知識が不足しがちなことが一因です。

典型的なトラブルのひとつは、預貯金の凍結解除や公共料金の名義変更が遅延し、生活に支障をきたすこと。また、不動産の相続登記が長期間放置され、売却ができず資産運用ができないケースも多く見られます。さらに遺言書の存在を知らずに遺産分割協議を進めてしまい、のちに発見されてやり直す事態も珍しくありません。これらは、忙しい教職員が遺言や財産の管理情報を家族内で共有していないことが根本原因となっています。

遺産分割協議で争いになる事例としては、生活費援助や生前贈与が不公平感を生むこともあります。特に、兄弟姉妹の間で「親の介護や生活支援を誰がどれだけ行ったか」が争点となり、感情的対立に発展するケースも見受けられます。こうしたトラブルは、事前の情報の透明化と話し合いの実施でかなりの部分が回避可能です。

解決策としては、まず相続開始後できるだけ早く、相続人全員で正確な財産の全貌を共有し、認識の違いを無くすことが必須です。その上で専門家を交えた話し合いを持つことが望ましいです。税理士や司法書士などの専門家が遺産分割協議書の作成支援、財産評価、遺留分調整などをサポートすることで、双方の不利益を抑えられます。特に教職員の方は勤務環境が多忙かつ不規則であるため、専門家による間接的な調整がトラブル回避に極めて有効です。

また、遺産分割協議における合意形成は、単に法定相続分の数字だけでなく、介護や生活支援の貢献度、家族関係、今後の扶養義務を考慮した柔軟な対応が求められます。こうした配慮が円満な相続の実現につながることを念頭に置くことが重要です。

8-3 遺留分や遺贈―相続トラブルを事前に防ぐプロのアドバイス
遺留分は、法定相続人が最低限確保できる相続財産の一定割合で、遺言によっても侵害できない民法上の保障です。遺留分の存在は、遺言や遺産分割における紛争の大きな火種となります。配偶者、子ども、直系尊属には遺留分が認められ、兄弟姉妹にはありません。遺留分は相続財産の総額の半分(直系尊属のみの場合は3分の1)を基準とし、それぞれの法定相続分に応じて按分されます。

実務では、遺言で特定の相続人に多くの財産を遺贈(=遺言による無償譲渡)した場合に、他の法定相続人が遺留分を主張してトラブルとなることが多いです。このような紛争を未然に防ぐためには、遺言作成時から各相続人の遺留分を意識した記載を行うことが有効です。たとえば、「遺留分減殺請求に備えた調整条項」を入れる、公正証書遺言で専門家が文章の法的整合性を担保するなどの対策があります。

さらに相続紛争を避けるためには、生前対策として家族間での話し合いも大切です。遺留分を含めた相続全体の見通しや意向を共有することで、誤解や嫉妬を減らし、円満な相続手続きを促進します。教職員の皆さまは仕事上のコミュニケーション能力に長けていますので、その強みを活かして家族間の率直な話し合いを促すことが望ましいです。

遺贈については、法定相続人以外にも財産を贈ることが可能なため、遺言の柔軟性を活かした資産の分配ができます。一方で、法定相続人の遺留分を侵害するような場合は、遺留分減殺請求の対象となるため、遺言の内容設計には注意が必要です。遺留分の減殺請求期限は1年とされていますが、紛争を早期に防ぐためには生前から専門家に相談し適切な遺言作成の助言を受けることがポイントです。

結論として、教職員方が遺産分割トラブルを避けるには、遺留分を含む法的ルールの理解、専門家の助力を得た遺言書作成、そして家族間の早期かつ率直な話し合いが不可欠です。多忙な毎日の中でも、将来の家族円満のためにこの点に十分意識を向けていただきたいと思います。