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6.相続税申告が必要になる基準と具体的な申告手順

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2025.09.23

公立学校の教職員のための相続がわかるブログ
このブログは拙著「公立学校の教職員のための相続がわかる本」
→ https://www.amazon.co.jp/dp/B0D5WFBG3S
をブログ用に再構成したものです。

相続税申告が必要になるか否かは、何よりもまず「相続財産の評価額」が基礎控除額を上回るかどうかにかかっています。基礎控除額は以下の式で計算されます。

【基礎控除額】=3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

公立学校の教職員のご家庭では夫婦共に収入が安定し、退職金や年金も比較的多い傾向にあるため、相続財産がこの基礎控除額を超えやすいケースに注意が必要です。なお、法定相続人の数は前述のように戸籍をもとに正確に把握し、相続人全員を対象に計算します。

次に、課税対象となる相続財産の範囲ですが、現金・預貯金、不動産(自宅・貸地)、有価証券、未収金(貸付金など)、また死亡保険金や死亡退職金も含まれます。ただし、死亡保険金と死亡退職金はそれぞれ「法定相続人の人数×500万円」までは非課税である点を活用して節税できます。例えば、法定相続人が4人なら亡保険金と死亡退職金はそれぞれ2,000万円までは相続財産に加えない計算です。この特例は教職員家庭で生命保険加入率が高い場合、非常に効果があります。

なお、令和6年以降の税制改正では、相続開始前の生前贈与の持ち戻し期間が延長される予定です。従来は3年間でしたが、段階的に7年までに拡大されます。これにより、7年前までに贈与された財産も相続財産として加算される場合が増え、過去の贈与記録の把握がより重要となります。

相続財産の評価基準も財産によって異なります。特に不動産は、路線価または固定資産税評価額をもとに評価しますが、路線価が設定されていない地域では固定資産税評価額を使います。その際、土地の相続税評価額は市場価格の約70~80%程度と理解し、財産評価の過不足に注意が必要です。専門家に依頼することでこれらの評価ミスを防げます。

また、借入金や葬儀費用など相続財産のマイナスとなる負債は控除できるため、これらも漏れなく整理しておくと課税額抑制に繋がります。相続税申告は財産評価の正確性が合否を分ける点ですので、公立学校の忙しい教職員の皆様は専門税理士のサポートを強くおすすめします。

6-2 教職員家庭でありがちな財産構成ごとの申告ポイント
公立学校の教職員の家庭で多い財産構成として、現預金・不動産・有価証券が代表的です。ここでは、それぞれの特徴と相続税申告時の注意点を解説します。

まず、現金・預貯金は相続財産中もっとも把握しやすい資産ですが、複数の金融機関に分散している場合が多く調査が煩雑になることもしばしばです。申告を正確に行うためには、遺産分割協議の前にすべての口座を洗い出し、残高証明書を各行から取得して合計を算出します。また、相続開始後は被相続人の口座が凍結されるため、なるべく早く名義変更を進めることもポイントです。

次に、不動産は教職員の家庭で自宅の他に貸家や貸地を所有している場合があり、特に兼業禁止の規定に絡む不動産賃貸業を営んでいるかどうかが評価に影響します。貸付事業とみなされる場合、単純な土地評価に加えて、貸付事業用財産としての特例適用や評価方法の違いにより相続税額が変わります。さらに、小規模宅地等の特例の適用が可能な場合、自宅用地や賃貸用住宅用地の課税評価額を最大80%減額できるため、申告の際に是非検討が必要です。

有価証券については、株式・投資信託・債券などが主で、証券会社の残高報告書や売買履歴での確認が必須です。相続税申告では、評価日の終値や譲渡損益の有無に注意し、特に上場株式の場合は路線価のような評価明細はなく証券取引市場価格で算出します。亡くなった方が未処分の株式を保有している場合、その評価が相続税額に直結するため、専門家の評価助言が有効です。

他に教職員の家庭でよくある相続財産として生命保険金が挙げられます。前述の通り、法定相続人1人につき500万円の非課税枠が適用されますが、受取人指定が適切でないと遺産分割協議の対象になり争いの火種になることもあります。保険契約書の所在を含めた整理が大切です。

最後に、借入金や未払医療費、葬儀関係費用などの負債は控除可能な経費として申告時に重要です。これらは相続財産の総額から差し引くため、多忙な教職員の方は領収書をきちんと保管し、正確に申告書類に反映させられるよう準備しましょう。

6-3 プロが教える相続税特例(配偶者控除・小規模宅地)活用法
相続税申告において、適切に活用すれば税負担を大幅に軽減できる代表的な特例として「配偶者の税額軽減」と「小規模宅地等の特例」があります。教職員のご家庭でもよく対象となるので、具体的活用ポイントを解説します。

①配偶者の税額軽減の特例

配偶者が相続する財産については、配偶者の法定相続分または1億6,000万円のいずれか大きい金額までは、相続税が課されません。つまり、配偶者が1億6,000万円までの財産を相続する場合、税金は基本的にゼロとなります。ただし、注意すべきは「安易に一次相続で配偶者に財産を集中させること」です。将来的に配偶者が亡くなった際の二次相続で多額の相続税が課されるリスクが高まるため、戦略的に遺産分割を検討する必要があります。教職員のお客様には、将来の相続税負担の分散を前提にした遺産分割設計を助言しています。

②小規模宅地等の特例

自宅の土地や、事業用・賃貸用の宅地については一定の条件を満たすと、評価額を最大80%減額できる特例です。具体的には

自宅土地(居住用宅地): 面積のうち最大330㎡まで
貸付事業用宅地: 最大200㎡まで
減額対象となり、相続税の負担軽減に直結します。特例適用には、相続人が被相続人の居住継続や事業継続の要件を満たし、かつ適切に遺産分割協議書で特例対象であることを明記する必要があります。兼業禁止に関係する不動産賃貸業は特に実態を正確に整理した上で適用判定されるため、専門家の関与なしでは読み違いのリスクがあります。

これら特例の適用には期限内の正確な申告と書類整備が不可欠です。申告期限の10ヶ月以内の対応と、必要資料の整備を怠らず、場合によっては税務署との折衝にも強い税理士を活用しましょう。

また、生命保険の非課税枠や生前贈与の活用も合わせて検討することで、総合的に相続税負担を減らすことが可能です。相続税は単純な税率計算では済まないため、プロの総合的判断が必要であることを教職員の皆様には改めてお伝えしています。

以上、公立学校の教職員の方々が相続税申告を検討される際の基準、財産構成別のポイント、そして特例の活用法を税理士の視点で解説しました。多忙な教職員の皆様が適切な申告を行い、将来の負担を減らすための手助けになれば幸いです。