
公立学校の教職員のための相続がわかるブログ
このブログは拙著「公立学校の教職員のための相続がわかる本」
→ https://www.amazon.co.jp/dp/B0D5WFBG3S
をブログ用に再構成したものです。
5-1 遺書と遺言書の違い~法律的効力の重要性
遺言書と遺書は似た言葉ですが、法律上の扱いは大きく異なります。特に公立学校の教職員のように、多忙でかつ制度的な正確さが求められる方々には、この違いを正確に理解することが重要です。
まず「遺書」とは、亡くなった方の思い、感謝の言葉、謝罪、家族へのメッセージなどを綴ったものであり、法律的な効力は一切ありません。すなわち、遺書が残されていても、その内容をもとに遺産を分割する義務は生じませんし、相続手続に直接活用されることもありません。ただし、遺書に家族の心情や願いが書かれていることで、相続人間の心情的な調整に役立つことはあります。
一方、「遺言書」は法律で定められた手続と要件を満たす文書であり、財産の帰属や管理に関する法的な拘束力を持ちます。遺言書が有効であれば、相続人はこの遺言内容に従って遺産分割を行わなければなりません。遺言がない場合や無効の場合は、民法の法定相続分や遺産分割協議に基づく相続が行われるため、遺言書の有無は相続手続きの行方に大きな影響を与えます。
また、遺言書で指定した相続分は法定相続分を変えることが可能ですが、法的に認められている範囲(例えば遺留分の保障など)を逸脱すると相続争いの火種になることもあります。教職員の方々は、多忙な日常の中でこうした法的効力の違いを誤解し、遺言ではなく遺書を書いて終わってしまったり、遺言書作成を怠りがちです。これが相続トラブルの原因ともなるため、正しい理解と適正な作成が求められます。
なお、遺言は法律で細かい形式が厳格に定められており、不備があると無効になる恐れがあるため、自己流での作成は避けるべきです。これについては、後述する遺言書の種類や作成手順で詳しく説明します。
5-2 自筆証書遺言と公正証書遺言のメリット・デメリット
遺言書には主に「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類があります。教職員の財産状況やスケジュール、プライバシーの配慮などを踏まえて、どちらを選択するかを検討することが重要です。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は遺言者自身が全文・日付・署名を手書きで作成する遺言書です。かつては全文手書きが義務付けられていましたが、令和2年7月10日以降は財産目録に関してはパソコンや代筆が認められています。ただし、財産目録の各ページには署名押印が必要であり、その細かいルールを守ることが必須です。
メリット
作成が手軽で費用がかからない。
自宅などプライベートな場所で作成できる。
内容を他者に知られずに済む。
デメリット
法律で指定された方式に厳格に従わなければならず、不備があると無効となるリスクが高い。
紛失や改ざんのリスクがある(自宅保管の場合)。
死後に裁判所で検認手続きが必要で、相続手続きに時間がかかる。
公正証書遺言
公正証書遺言は公証役場で公証人と証人2名の立ち会いのもと作成され、原本は公証役場で保管されます。遺言者は内容の確認と署名押印のみが求められ、細かい法的手続きは公証人が代行します。
メリット
法的形式が適正に守られ、無効リスクが極めて低い。
原本は公証役場で保管され紛失・改ざんの心配がない。
死後の検認は不要で、相続手続きが迅速に進む。
遺言内容の法的な実現性が高く、相続人間の争いを未然に防げる場合が多い。
デメリット
作成費用が自筆証書遺言より高額になる(一般に数万円程度の公証人手数料が必要)。
公証役場に出向く必要があり、スケジュール調整の負担がかかる。
教職員の方は、業務の多忙さを考慮すると、作成時に専門家(税理士、司法書士、弁護士)と連携して内容を検討し、ミスのない公正証書遺言の作成が特におすすめです。もちろん財産が少額の方、自筆証書遺言作成後に公証役場で保管する制度もあり、リスク分散が図れます。
5-3 専門家おすすめ!無効・紛失リスクなしの遺言作成手順
公立学校の教職員は非常に多忙であり、遺言書作成に時間を割けないことが多いのが実情です。しかし遺言書の不備や紛失は、相続手続きの複雑化と遺族の精神的不安を招きかねません。そこで、税理士として推薦する遺言作成のポイントと具体手順を以下にまとめます。
1. 事前準備・専門家相談
自身の財産内容や希望を整理します。例えば、不動産、預貯金、保険、退職金見込みなどをリストアップ。
相続人の範囲や心情問題も考慮しながら、専門家(税理士、司法書士、弁護士)に相談します。特に相続税の見込みや、遺留分問題を含めた法的助言を受けることが重要です。
2. 遺言書の種類と作成方法を選定
財産規模やプライバシー感覚、作成の手間、将来の手続き負担を比較検討し、自筆証書遺言または公正証書遺言を選びます。
自筆証書遺言を選択する場合でも、専門家に事前に内容をチェックしてもらう「遺言作成サポートサービス」を利用すると、無効リスクを大幅に減らせます。
公正証書遺言にする場合は、公証役場の予約、証人2名の確保も含めた計画的な準備が必要です。
3. 記載内容の留意点
相続人の名前、続柄を正確に記載すること(戸籍での表記と一致させる)。
財産の特定は具体的に行い、漏れや曖昧さを避けること。
条件付きの遺言や代償分割、遺留分への配慮も専門家と一緒に精査します。
日付と署名捺印は必須。特に自筆証書遺言は全文手書きが原則なので注意が必要。
4. 遺言書の保管
自筆証書遺言の場合、令和2年から「法務局における自筆証書遺言書保管制度」が利用可能です。これにより、紛失・改ざんリスクが低減され、死後の検認手続きも不要になります。教職員の方にも非常に有効な制度です。
公正証書遺言は公証役場で原本を保管してもらうため、保管に関する心配は不要です。
5. 定期的な見直し
教職員は転勤や異動、家族構成の変化(結婚、離婚、子の誕生など)が多いため、3~5年ごとに遺言内容の見直しを行うことをおすすめします。遺言書を放置すると、財産状況の変化に対応できなかったり、新たな法律改正が反映されずに不利益を被る可能性があります。