
公立学校の教職員のための相続がわかるブログ
このブログは拙著「公立学校の教職員のための相続がわかる本」
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をブログ用に再構成したものです。
公立学校の教職員は公務員として、一般に「兼業禁止」の規定を受けるため、相続においても不動産賃貸業や農業といった事業の引き継ぎについて注意が必要です。本項では、兼業禁止の具体的な基準、相続で兼業に関わる事業を引き継ぐ際の注意点と申請手順、さらに相続時に発生しやすい不動産や事業継承のトラブル事例を税理士の専門的観点から解説します。
4-1 地方公務員法の「兼業禁止」とその具体的基準
地方公務員法第38条は、公務員が職務の公正を害さないために、原則として兼業を禁止しています。公立教職員も例外ではありませんが、教育委員会等の許可を得ることで、一定の範囲内で兼業が認められる場合があります。許可の可否は事業の内容と規模、職務への支障の有無により判断されます。
兼業の代表例として多いのが不動産の賃貸業や農家の経営ですが、許可申請の基準は以下の通りです。
事業の規模
人事院規則などを参考にすると、賃貸業の場合、以下のいずれかに該当すると自営とみなされ、兼業許可申請が必須となります。
建物5棟以上または10室以上の賃貸
土地10筆以上の賃貸契約
駐車場貸付10台以上
年間賃貸収入が500万円以上
これらの基準に満たない場合でも、自治体の条例により異なることがあるため、必ず担当窓口に事前確認する必要があります。
物件管理方法
賃貸管理業務は、入居者募集や家賃の回収、維持管理が職務に支障を来たさず、かつ本人が直接実務を行わないことが要件です。通常は管理会社や業者に委託し、教職員が日常業務に集中できる態勢が求められます。
農業など家業の継承
親の農地を相続した場合でも、兼業許可の有無は農作業の実態と経営規模に依存します。小規模農業であれば許可不要の場合も多いですが、自営として判断されると申請が必要となります。
兼業禁止規定の趣旨を理解し、無断で兼業が判明すると処分対象となるリスクがあるため、相続前後いずれの場合でも早めに教育委員会等の許可申請を行うことが不可欠です。
4-2 親の賃貸業や農業を相続する際の落とし穴と申請手順
公立教職員の親が不動産賃貸業や農業などの事業を営んでいるケースは珍しくありません。相続でこれらの事業を引き継ぐ際には以下のポイントを押さえておく必要があります。
事業内容の把握と規模確認
相続前に親の賃貸物件の規模や契約状況、収益状況を正確に把握しましょう。特に不動産の数や年間収入の合計を確認することで、兼業許可の申請要否の第一歩となります。
自治体の規則確認
兼業許可に必要な基準は自治体ごとに異なる場合があります。具体的には教育委員会や総務部門にて、該当自治体の兼業規定を確認し、過去の判例や運用ルールを把握します。
許可申請の流れ
許可申請には、事業内容の説明書類、収入証明、管理委託契約の写しなどを添付します。本人が職務に支障を来さないことを具体的に説明することが求められます。許可が下りるまでの期間は自治体により異なりますが、数週間~数ヶ月かかることもあり、相続後速やかに申請手続きを進めることが望ましいです。
兼業禁止に抵触した場合のリスク
もし申請なしに事業を継続すると、公務員としての懲戒処分や昇進等に影響が出る可能性があります。また、兼業禁止が適用される事業の放置は、不動産の処分や事業継承の妨げとなることもあるため注意が必要です。
対策としての事業内容の変更や売却
許可を得られない場合や手続きが困難な場合は、不動産の売却や親族間での相続分割を検討します。税理士は相続税面も含め、多角的な視点から最善策を提案可能です。
4-3 不動産の相続・事業継承トラブル事例と税理士のアドバイス
実務上、公立教職員の相続において不動産や事業継承が絡むと、下記のようなトラブルが起こりやすいです。
無許可の賃貸物件引継ぎによる兼業違反発覚
ある教職員が祖父母から賃貸マンションを相続したものの、兼業許可を得ていなかったため、後日教育委員会の調査で発覚。処分の危機となり、慌てて許可申請をしたが、許可条件の緩和は難しく、結局一部物件を売却せざるを得なかったケース。
農業継承と兼業申請の不備による営業停止リスク
農家の親が死亡し子が相続したが、農業の兼業許可申請をせずに営農継続。自治体の監査で指摘され、許可申請を改めて行うまでの間に営業停止に近い状態となった事例。
不動産名義変更の遅延による相続トラブル
兼業の許可申請を待つ間に不動産の相続登記が遅れ、名義人不明で売買や担保設定が困難となり、相続人間で不信感が生じた。令和6年4月1日以降の相続登記義務化により、3年以内の登記遅延は罰則対象となるため、適時の手続きが不可欠。
税理士としてのアドバイス
不動産賃貸業や農業を含む兼業は、公立教職員の相続において専門的な知識と慎重な対応が求められます。
早期の専門家相談を推奨
兼業の可否、許可申請手続き、税務上の評価・申告、相続税の最適化について、税理士が関与することで総合的にリスクを低減できます。
相続登記の迅速な実施
兼業許可が適用される事業用不動産は複雑になりがちです。令和6年改正による相続登記義務化を踏まえ、期限内に正確な名義変更を行いトラブル予防を図りましょう。
事業規模や管理体制の見直し
兼業許可を得やすい事業規模や委託体制の構築を提案し、公務員としての職務に支障をきたさない形での事業継続を支援します。
相続税対策との連携
兼業により発生する評価額や収益見込みを正しく把握し、相続税計算に反映。賃貸不動産の評価減等の特例を活用し、税負担の軽減を検討することも重要です。
総じて、公立教職員の「兼業禁止」と相続の問題は単なる法令遵守にとどまらず、相続税対策や円滑な財産承継の観点からも高度な対応が求められます。専門的な知識を持つ税理士や関連士業との連携によって、最適な対策を講じることが、本人と次世代の安心につながると言えるでしょう。