
公立学校の教職員のための相続がわかるブログ
このブログは拙著「公立学校の教職員のための相続がわかる本」
→ https://www.amazon.co.jp/dp/B0D5WFBG3S
をブログ用に再構成したものです。
3-1 公的調査・教職員の家計と「損しやすい」相続との関係
公立学校の教職員の方々は、公務員としての安定した収入と福利厚生が魅力ですが、実は家計管理や財産形成に関しては意外に課題を抱えていることが、近年の公的調査からも明らかになっています。たとえば2022年度の国家公務員退職者の家計調査では、約5人に1人が赤字家計となっていることが示されました。教職員も同様の傾向にあり、お金に対する意識の低さが根底にあります。
この意識の低さが相続税対策の面で大きなマイナスとなっているのが現状です。日頃から忙しい勤務の合間を縫って、相続に向けた財産の整理や計画的な節税対策を行う余裕がないため、相続開始後に慌てて対応する事例が少なくありません。その結果、相続税の特例や控除を十分に活用できず、納税額が予想以上に膨らむことが多いのです。
教職員の方々の特徴として、遺言書を準備しているケースが非常に少ない点も問題です。遺言書は相続争いを未然に防ぐだけでなく、スムーズな遺産分割手続きにおいても重要な役割を果たします。遺言書がなければ、法定相続人間の調整が長引き、結果として時間的・精神的コストが増大します。これもまた相続税対策を考える上では見逃せないポイントです。
財産の種類に目を向けると、預貯金だけでなく不動産や退職金、共済年金などの非公開的な資産の評価が難しく、これも相続税申告の際の課題となっています。特に公立学校の教職員の場合、「みなし退職金」として扱われる共済年金の評価や、勤務先から支給される退職一時金の取り扱いは税務上重要であり、専門的な知識が不可欠です。このような複雑な財産を的確に把握し、正しく評価しなければ、見逃しや損失が生じるリスクが高まります。
さらに、多忙のあまり生前に相続対策を講じることが後回しにされがちですが、相続対策は「早く始めること」が節税効果を最大化する最も確かな手段です。例えば一定額までの生前贈与や生命保険の利用は、相続財産を圧縮し、納税資金を確保するうえで有効ですが、これらは準備期間を持って計画的に進めることが求められます。専門家と早期に相談し、個々の家族構成や財産状況に即した対策を立てることが、結果的に「損しない相続」への最短ルートです。
総じて、公立学校の教職員は安定した職業であるものの、相続にかかわるお金の知識不足や時間的制約によって損をしやすい側面があることを理解し、自己学習や専門家の活用を通じて意識改革を図ることが第一歩となります。
3-2 「生命保険」と「生前贈与」の徹底活用で相続税を減らすコツ
教職員の皆様にとって、相続税の節税対策として最も身近で効果的な手段の一つが生命保険の活用です。生命保険には、死亡保険金に対して法定相続人1人につき500万円の非課税枠が設けられており、この仕組みを積極的に利用することで、非課税で受け取れる資産を増やし、結果として相続財産の課税対象額を減少させることが可能です。
具体的には、教職員ご本人が被保険者、受取人を配偶者や子など法定相続人に設定する形で生命保険に加入することが一般的です。保険金の受け取りは遺産分割協議の対象外となるため、受取人にとって速やかかつ確実な現金取得手段としても利用価値が高いです。加えて、相続税の納税資金準備としても有効であり、遺産の物理的換価が困難な場合の助けとなります。
ただし生命保険を活用する際のポイントとしては、「節税効果を最大化するために受取人や保険金額の設定を慎重に行うこと」「遺言書や生前贈与と併用した総合的な相続対策の一環として位置づけること」が挙げられます。単純に保険金額だけを増やしても他の相続対策とバランスを欠く恐れがあるため、税理士など専門家のアドバイスを基に全体設計を行うことが望ましいです。
一方、生前贈与も相続税対策の重要な柱です。年110万円までの贈与にかかる贈与税が非課税となる「暦年課税制度」を利用し、継続的に財産を分割して贈与することは、相続財産の圧縮に繋がります。特に、将来の相続人である子や孫へ少しずつ資産を移転することで、累積的に相続税負担を軽減可能です。
令和6年の税制改正により、生前贈与に関する持ち戻し期間の見直しが段階的に実施されていることにも注目すべきです。相続開始前7年以内の贈与は、原則として相続財産に加算されますが、相続人以外(例えば孫や配偶者以外の親族)への贈与はこの対象外となりました。このため、贈与の対象者や時期を適切に選定すれば、より効果的な節税が期待できます。
さらに「相続時精算課税制度」という仕組みもあります。この制度を活用すると、60歳以上の親から18歳以上の子や孫へ贈与した財産については、合計2,500万円まで贈与税が非課税となり、贈与時に課税されず相続時に一括精算されます。こちらは節税効果が高い一方、制度を一度選択すると取り消しができないため、将来的な相続の見通しを立てた上での慎重な判断が求められます。
これらの生命保険や生前贈与を駆使した対策は、単純な節税だけでなく、遺産分割の円滑化や相続税納税資金の確保といった実務面でのメリットも大きいため、専門家の視点からは必ず検討すべき施策としておすすめしております。
3-3 税理士が解説、お金が苦手でも分かる相続対策の第一歩
「お金のことは苦手で…」と感じる公立学校の教職員も多いでしょう。しかし相続対策は専門用語が多いだけでなく書類も複雑なため、誰もが戸惑うものです。そこで、税理士として最初にお伝えしたいのは「小さなことから始めて良い」ということです。
まずは自分やご家族の財産をリストアップしてみることからスタートしましょう。預貯金、不動産、保険、退職金見込み、借入金など身近にある情報を書き出すだけでも、現状把握の大きな一歩となります。難しい資産評価や相続税の計算は専門家に任せる前提で構いません。
次に、可能であれば家族全員が集まり、「どの財産を誰に渡したいのか」「相続税対策のために何ができそうか」という話を共有しましょう。会話が難しい場合は相続手続きや税金の専門家(税理士や司法書士)に相談し、ファシリテーションを依頼するのも効果的です。専門家が中立的な立場から説明すると、ご家族も理解しやすくなり、意思疎通がスムーズになります。
そして、生命保険や生前贈与の活用は「準備期間が必要」と辛抱強く取り組むべき課題です。例えば毎年の贈与を始めるだけでも、数年後に大きな違いが生じます。また生命保険加入も、類型によっては簡単に始められるものから検討を重ねる必要があるものまでありますので、専門家にご相談のうえ適切なプランを選びましょう。
何よりも大切なのは、「相続税がどうなるか」という不安を放置せず、早期に専門家に相談して自身のケースに合った対策を得る習慣です。公立学校の教職員という公的な立場を活かし、正しいお金の知識で家族の未来を守りましょう。相続対策は決して難しい話ではなく、心の平安につながる「家族の安心のための準備」と考えることがおすすめです。
専門家は複雑な計算や制度の解説だけでなく、教職員の多忙さや特有の事情に理解を示し、無理なく続けられる対策の提案を心掛けています。ぜひお気軽にご相談いただき、第一歩を踏み出してください。