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遺言書が後から見つかったら、相続税はどうなる?――「相続させる」遺言と申告やり直しの考え方

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2026.04.07

相続税の申告と納付を終えたあとに、被相続人の遺言書が見つかる。
しかも、その内容が当初の遺産分割協議と大きく異なっていた――。

このような事態は決して多くはありませんが、いざ起きると相続人にとっては非常に悩ましい問題です。
特に、「すでに申告した相続税はどうなるのか」「納めた税金は戻るのか」「逆に追加で申告が必要なのか」は、実務上とても重要な論点です。

今回は、「相続させる」旨の遺言書が後日発見されたケースを題材に、相続税の手続関係を整理してみます。

## まず事例の全体像を整理する

今回の事例では、被相続人Xが亡くなり、相続人は次の2名です。

・長男Aはすでに死亡しており、その子である代襲相続人a
・次男B

当初は、aとBがそれぞれ2分の1ずつ相続する内容で遺産分割協議が成立していました。
また、長男Aの妻Cは、Xの介護を10年以上続けてきたことから、次男Bに対して特別寄与料を請求し、一定額の金銭を受け取っています。

その後、相続税については、

・代襲相続人a
・次男B
・特別寄与料を受領したC

この3名で期限内申告と納付を済ませていました。

ところが後日、Xの遺品整理中に遺言書が見つかります。
その内容は、

**「Xの全財産を長男Aに相続させる」**

というものでした。

もっとも、AはXより先に亡くなっています。
そこで弁護士に確認したところ、遺言書の記載内容や代襲相続に関する事情から、この遺言は有効と考えられる、との判断が示されたという前提です。

## 最初に確認すべきは「遺言の有効性」

この種の問題で、まず何より重要なのは、

**その遺言が本当に法的に有効なのか**

という点です。

「相続させる」旨の遺言は、特定の相続人に特定の財産、あるいは全部の財産を承継させる意思を示すものです。
現在では民法上、「特定財産承継遺言」として位置づけられています。

ただし、今回のように「相続させる」とされた相手が、遺言者より先に亡くなっている場合には、常に当然に代襲相続が生じるわけではありません。
原則として、そのままでは効力を生じないと考えられています。

そのうえで、遺言の文言全体や作成当時の事情、遺言者の意思などから、

**代襲者に承継させる意思があったとみるべき特段の事情**

があれば、有効と判断される余地があります。

つまり、税務の前に、まず民事上の整理が必要だということです。
ここは相続人だけで判断せず、弁護士などの専門家の確認が不可欠です。

## 「相続させる」遺言が有効だと、何が起こるのか

「相続させる」旨の遺言が有効であれば、その財産は原則として、被相続人の死亡時に直ちにその指定相続人へ承継されます。
通常の遺産分割協議を経て初めて取得するのではなく、遺言そのものにより承継関係が決まる、というのが基本的な考え方です。

今回の事例で、長男Aに相続させる遺言が、代襲相続人aに承継させる趣旨を含むものとして有効とされるなら、

**aが全財産を相続する**

という結論になります。

その結果、当初2分の1を取得する前提で申告していた次男Bは、相続分を失うことになります。
当然、相続税の申告内容もそのままでは整合しなくなります。

## ケース1 遺言のとおり、aが全財産を相続する場合

この場合、すでに提出した相続税申告は、実態とずれてしまいます。
そこで問題になるのが、

・次男Bの税額を減らす手続
・代襲相続人aの税額を増やす手続

です。

### 次男Bは更正の請求を検討することになる

当初の申告ではBは財産を取得した前提で税額を計算し、納付まで済ませています。
しかし、遺言の有効性が認められ、その結果として財産を取得しないことになるなら、納めすぎになっている可能性があります。

このような場合、実務上は、

**更正の請求**

が問題になります。

本文で示されている考え方では、遺言書の発見を理由に、相続税法32条1項4号の特則に基づく更正の請求を行う余地があるとされています。
そして、その期限は、

**遺言書が発見されたことを知った日の翌日から4か月以内**

という整理です。

ここでひとつ注意が必要です。
相続税法32条1項4号は条文上「遺贈に係る遺言書が発見されたこと」と規定しており、今回のような「相続させる」旨の遺言と文言上ぴったり一致しているわけではありません。

そのため、厳密には解釈上の論点が残ります。
もっとも、実質的には「後から遺言書が見つかったことにより申告内容が変わる」という点で共通しており、本文でも弾力的に取り扱うべきとされています。

この論点は実務上かなり重要です。
税務署対応を含め、専門家と事前に方針を固めておくべき場面でしょう。

### aは修正申告の対象となる可能性がある

一方で、aは本来より多くの財産を取得することになります。
当初申告より取得割合が増え、税額が不足するなら、

**修正申告**

が必要になります。

これも本文では、相続税法31条の規定に基づく修正申告書の提出が考えられると整理されています。
ただしこちらも、前提として相続税法32条1項4号との関係整理が重要になります。

要するに、

**Bは税金を返してもらう方向、aは追加で申告納付する方向**

と理解すると全体像がつかみやすいでしょう。

## 特別寄与料を受け取ったCはどうなるのか

今回の事例で見落としやすいのが、長男Aの妻Cが受け取った特別寄与料です。

特別寄与料は、相続人ではない親族が、被相続人の療養看護などに特別の寄与をした場合に、相続人に対して金銭請求できる制度です。
そして、その負担は相続分に応じて各相続人が負うのが原則です。

ところが、遺言の有効性が認められ、aが全財産を相続することになると、Bは相続分を失います。
そうなると、当初Bに対して行われた特別寄与料の請求の前提が崩れます。

その結果として、

**CにはBから受け取った特別寄与料の返還義務が生じる可能性**

があります。

もし最終的にCが特別寄与料を受け取らないことになるなら、C自身の相続税申告にも影響が出ます。
この点についても、本文では更正の請求の対象となり得ると整理されています。

つまりこのケースは、Bとaだけの問題ではなく、

**Cの税務まで連動して動く**

ということです。

## ケース2 遺言が見つかっても、相続人全員で当初の分割のままとする場合

もうひとつ重要なのが、

**遺言書が見つかっても、その内容どおりにせず、相続人全員の合意で当初の遺産分割協議を維持するケース**

です。

一見すると、「遺言がある以上、それに必ず従わなければならないのでは」と思われがちです。
しかし実務では、相続人全員の意思が一致していれば、遺言と異なる内容で整理する余地があると考えられています。

本文でも、判例を踏まえ、

**相続人全員の合意があれば、「相続させる」遺言と異なる分割協議も原則可能**

とされています。

### この場合、相続税申告はどう考えるか

このケースでは、最終的に当初の分割内容を維持するわけですから、

**申告内容と結果が一致する**

ことになります。

そのため、既に行った申告をやり直す必要は通常生じません。
また、遺言と異なる分割にしたからといって、直ちに贈与税が課されるわけでもない、というのが基本的な考え方です。

ここは相続人の方が不安になりやすいところですが、

**全員の合意による遺産分割の整理であれば、直ちに贈与とはならない**

という点は、実務上とても大切です。

ただし、すでに遺言に基づく名義変更や執行が済んでしまっている場合は別論点が生じます。
その後に権利関係を動かすと、贈与税や譲渡所得課税が問題となる余地があります。
「見つかった後どうするか」だけでなく、「どこまで執行が進んでいるか」も確認が必要です。

## このケースでも、特別寄与料は別途慎重な検討が必要

たとえ相続人全員の合意で当初の遺産分割協議のままとしたとしても、特別寄与料の問題がそのまま単純に維持されるとは限りません。

本文では、関連する最高裁判例を踏まえて、Bが特別寄与料を負担する立場にあるのかについて、なお慎重な検討が必要だとしています。
遺言の存在をどう捉えるか、遺留分侵害額請求権との関係をどう整理するかによって、結論が分かれ得るためです。

つまり、

**分割協議を維持する=特別寄与料もそのまま問題なし**

とは言い切れません。

この点は税務だけでなく民事上の整理が必要であり、弁護士と税理士の連携が強く求められる場面です。

## 経営者や相続人の方が押さえたい実務上のポイント

今回の事例はかなり複雑ですが、実務上の教訓は明確です。

まず一つ目は、

**相続税の申告が終わっても、遺言書の発見で前提が変わることがある**

ということです。

二つ目は、

**税務だけ見ても解決できず、遺言の有効性や相続分、特別寄与料など民事上の整理が先に必要**

だということです。

そして三つ目は、

**「遺言どおりにするのか」「全員合意で別の分け方にするのか」で税務手続が大きく変わる**

という点です。

同じ「遺言書が後から見つかった」という事実でも、その後の合意内容によって、

・更正の請求が必要になる人
・修正申告が必要になる人
・そもそも申告やり直しが不要な人

が分かれてきます。

## まとめ

今回のテーマを一言でまとめるなら、

**遺言書が後から見つかった場合、問題は“遺言の存在”そのものより、“その遺言をどう法的に整理し、最終的にどう承継するか”にある**

ということです。

遺言のとおりaが全財産を相続するなら、Bは更正の請求、aは修正申告、さらにCの特別寄与料にも見直しが及ぶ可能性があります。
一方で、相続人全員が合意して当初の分割のままとするなら、相続税申告自体はそのままで済む可能性があります。
ただし、その場合でも特別寄与料の扱いにはなお注意が必要です。

相続の実務では、「一度申告したから終わり」ではありません。
前提事実が変われば、申告や納税も動きます。
そしてその判断は、税法だけでなく民法や判例理解も踏まえて行う必要があります。

後から遺言書が見つかった場合は、慌てて手続を進めるのではなく、まず

**遺言の有効性
承継の結論
特別寄与料の扱い
更正の請求・修正申告の期限**

を順に整理することが大切です。

複雑なケースほど、早い段階で専門家に相談することが、結果的に最も確実で安心な対応につながります。