
「葬儀費用や当面の生活費をどう準備すればいいのか…」
ご家族が亡くなられた直後は、悲しみの中でさまざまな手続きが一気に押し寄せます。その中でも多くの方が直面するのが「預金が引き出せない」という問題です。
今回は、相続人の方に向けて、遺産分割前でも利用できる「預金の払戻し制度」について、実務の視点から分かりやすく解説します。
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■ 原則:遺産分割が終わるまで預金は動かせない
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被相続人(亡くなった方)の預金は、相続開始と同時に相続人全員の共有財産となります。
・遺言がある → 遺言で指定された人が手続き可能
・遺言がない → 相続人全員で「遺産分割協議」を行う必要あり
つまり、原則としては「相続人全員の合意」がなければ、預金は払い戻せません。
しかし現実には、葬儀費用や当面の生活費など、すぐにお金が必要になるケースがほとんどです。
そこで設けられているのが、次の制度です。
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■ 遺産分割前の「預金の払戻し制度」とは?
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一定額までであれば、遺産分割協議を終えていなくても、相続人の一人が単独で預金を払い戻せる制度です。
【計算方法】
払戻し可能額 =
「相続開始時の預金額 × 1/3 × 払戻しを受ける人の法定相続分」
ただし、同一金融機関からの払戻しは
▶ 上限150万円
が設定されています。
たとえば、
・預金残高 900万円
・配偶者の法定相続分 1/2
の場合:
900万円 × 1/3 × 1/2 = 150万円
となり、ちょうど上限額まで払戻しが可能です。
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■ 必要書類は?
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主に以下の書類が必要です。
・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式
・相続人全員の戸籍謄抄本
(または法定相続情報一覧図の写し)
・払戻しを受ける相続人の印鑑証明書
※金融機関ごとに異なる場合がありますので、必ず事前確認を。
ここでつまずく方が非常に多いのが「戸籍の収集」です。
時間も労力もかかるため、早めの準備が重要です。
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■ 注意点:「もらえる」のではなく「仮払い」
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この制度は、あくまで「仮払い」です。
最終的な遺産分割では、
▶ すでに受け取った金額は相続分から差し引かれる
ことになります。
つまり、公平性は保たれる仕組みです。
反対に言えば、「使い込み」ではありませんが、使途について説明できるようにしておくことが大切です。
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■ 実務的アドバイス:本当に大切なのは“全体設計”
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預金の払戻しは一時的な資金対策にすぎません。
相続では、
・不動産の扱い
・相続税の申告(10か月以内)
・二次相続を見据えた分割
・家族関係への配慮
など、全体を俯瞰した判断が重要です。
「とりあえず引き出せたから安心」ではなく、
▶ この相続をどう着地させるのか
▶ 家族の関係性をどう守るのか
ここまで考えて進めることが、後悔しない相続につながります。
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■ まとめ
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✔ 遺産分割前でも一定額の払戻しは可能
✔ 上限は1金融機関あたり150万円
✔ あくまで仮払い扱い
✔ 相続全体の設計が重要
相続は、法律手続きであると同時に「家族の問題」でもあります。
不安なまま進めるより、専門家に相談しながら、安心できる形で整えていくことをおすすめします。
大切な想いを、きちんと未来へつなぐために。
制度を正しく知り、落ち着いて一歩ずつ進めていきましょう。