
2024年に施行された認知症基本法。
「共生社会の実現」が掲げられましたが、制度を支えるのは現場で働く公務員の皆さんです。
今回公表された内閣府の世論調査(令和7年8月調査)には、地域行政が取り組むべき課題と、市民の“不安のリアリティ”がはっきり表れています。
本記事では、行政職の視点で押さえるべきポイントと、自治体としての実務上の示唆を整理します。
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## 1. 市民の約6割が「認知症の人に接した経験あり」
今回の調査では、**60.5%が認知症の人と接した経験がある**と回答しています。
内訳を見ると、
・家族 53.5%
・親戚 34.2%
・地域のつきあい 22.0%
・医療介護の現場 18.3%
つまり、認知症は「自分には関係ない」ではなく、多くの市民がすでに日常的に触れているテーマです。
行政としては、地域包括支援センターや相談窓口へのアクセス性、情報提供の分かりやすさが問われる段階に入っているといえます。
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## 2. 「どう暮らしたいか」よりも「迷惑をかけたくない」が強い傾向
興味深いのは、自分が認知症になった場合の希望です。
・施設で暮らしたい(身の回りができない)15.0%
・周りに迷惑をかけるので施設で暮らしたい 27.3%
→ 合計 **42.3%**
さらに「迷惑をかけたくない」という心理は、不安項目にも強く現れています。
・家族への負担 74.9%
・迷惑をかける不安 49.5%
・経済的不安 42.0%
市民は、医療や介護サービスよりも前に、
**「家族関係」「地域との関係」「経済的不安」**
を強く気にしています。
行政としては、医療・介護資源の整備だけでなく、
・家族支援
・経済相談
・権利擁護(成年後見・消費者被害)
といった「生活そのものを支える施策」が求められます。
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## 3. 認知症基本法の認知度が“極めて低い”という現実
調査で最も象徴的だったのが、基本法の認知度。
・内容を詳しく知っている 1.0%
・成立したことは知らない 75.8%
施行から1年以上経っても、市民にほぼ届いていません。
行政の広報・周知の仕組み自体を見直す必要があります。
特に自治体は、次のような情報発信が重要です。
・市民向けのわかりやすい図解資料
・地域包括支援センターの役割
・相談先の明確化
・高齢者本人と家族それぞれへの情報発信
制度は「届けて初めて機能する」ことを、今回の調査が改めて示しました。
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## 4. 行政実務者への示唆:いま動くべき3つの視点
### ①「生活の不安」に寄り添う相談体制へ
市民の不安の多くは、医療・介護サービスより“生活”にあります。
専門部署だけではなく、税、福祉、地域、防災など、横断的な連携を組むことで相談支援の質は向上します。
### ② 認知症基本法の周知と地域版アクションプランづくり
住民が知らない制度は存在しないのと同じです。
自治体版のリーフレットや動画、地域説明会などの整備が急務です。
### ③ 認知症フレンドリーな地域づくりは「職員自身の理解」から
認知症施策は、地域包括ケア政策の核心でもあります。
窓口業務・住民対応の現場にこそ、認知症の基本理解が必要です。
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## 5. まとめ:認知症政策は“住民との関係性”そのもの
今回の調査で浮き彫りになったのは、
**「不安だが、どう相談すれば良いのか分からない」**
という市民の声でした。
行政職の仕事は、制度を運用するだけではなく、
“住民の不安に寄り添い、共生社会の入口を開くこと”でもあります。
認知症基本法施行後の今こそ、自治体の姿勢が問われています。
今回の調査結果を、地域づくりと行政の質向上に生かしていきましょう。