
「親族だから…」という理由で、相場よりかなり安く賃料を設定している不動産。
しかし年月が経つにつれ、
・他のテナントとの不公平感
・収益性の低下
・将来の相続・法人税務への影響
といった問題が表面化してきます。
今回は、実務相談としてよくある
「安く貸している親族に、退去または賃料値上げを求めたい」
というケースについて、法務と税務の両面から整理します。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 事案の概要
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
法人が所有する賃貸ビルの一室を、経営者の親族に事務所目的で賃貸。
・賃料は他のテナントよりかなり低廉
・契約期間は残り半年
・希望は「退去」または「最低3割の賃料増額」
ただし、借地借家法上、貸主からの解約・更新拒絶は簡単ではありません。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ ① 契約満了=退去できる、ではない
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
多くのオーナーが誤解しがちですが、
「契約期間が終わる=出ていってもらえる」
わけではありません。
建物賃貸借では、貸主から更新拒絶や退去を求めるには
【正当事由】が必要です。
裁判所は、次のような事情を総合的に判断します。
・双方の使用必要性
・これまでの賃貸経緯
・利用状況・建物の現況
・立退料の提供の有無 など
重要なポイントは、
「賃料が安すぎる」という理由だけでは、正当事由としては弱い
という点です。
立退料を提示しても、それだけで退去が認められる可能性は高くありません。
つまり、退去請求は
✔ 時間
✔ コスト
✔ 親族関係への影響
を覚悟した上で検討すべき手段です。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ ② 現実的なのは「賃料増額請求」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
一方で、賃料の増額については、法律上のハードルは比較的低くなります。
借地借家法では、次の場合に賃料増額請求が認められます。
・固定資産税などの負担増
・経済事情(物価・賃金など)の変動
・近隣相場と比べて不相当になった場合
今回のように、
・同一ビル内の他テナントより明らかに低廉
・契約当初の「親族だから」という特殊事情が薄れている
という事情は、増額の合理性を補強します。
まずは協議。
それでも折り合わなければ、調停や裁判という流れになります。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ ③ 税務の視点も忘れてはいけない
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ここは不動産オーナーとして、特に注意していただきたい点です。
法人が親族に相場より著しく安い賃料で貸している場合、
・寄附金認定
・役員給与認定
といった税務リスクが生じる可能性があります。
「家族間だから大丈夫」ではなく、
税務署は“第三者間ならどうか”で見ます。
賃料是正は、
✔ 収益改善
✔ 税務リスク低減
✔ 将来の相続・事業承継対策
にもつながる重要なテーマです。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ まとめ:感情と法律を切り分ける
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
親族が相手の不動産問題は、
・感情
・法律
・税務
が絡み合い、判断を誤りやすい分野です。
結論としては、
・退去請求は「最終手段」
・まずは賃料の適正化を軸に、段階的な交渉
これが現実的で、かつリスクの少ない選択肢といえるでしょう。
「今は我慢」ではなく、
“将来に問題を残さない形”で整える。
それが、不動産オーナーとしての経営判断だと私は考えています。
必要であれば、
・賃料水準の検証
・税務リスクの洗い出し
・交渉方針の整理
まで含めて、一緒に考えていきましょう。