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親のお金を「代わりに管理したい」と思ったら──信託・委任・任意後見の違いと注意点

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2025.10.16

「高齢の親の代わりに、銀行で生活費を引き出したい」
このような相談が近年増えています。特に地方に住む親御さんを支える公務員の方々からは、「何かあってからでは遅い。元気なうちに準備しておきたい」との声をよく耳にします。

しかし、民法や金融実務の観点からは、本人以外がスムーズに財産管理するためには、いくつかの制度的なハードルと注意点があります。
今回は「親の財産を子が管理する方法」について、制度ごとの特徴と注意点を、税理士としての視点から解説します。

【高齢の親の財産管理、なぜ難しい?】
「委任状があれば、親の代わりに銀行で引き出せると思った」
これは多くの方が持つイメージですが、実際には金融機関が“本人確認”を厳格に行うようになっているため、委任状があっても本人が同行しなければ対応不可というケースも多く見られます。

高齢の親が足腰が弱っていたり、遠方に住んでいたりする場合、このような対応は非常に現実的ではありません。では、どんな制度があるのでしょうか?

【信託契約:管理権を子に移す仕組み】
信託とは、親(委託者)が、子(受託者)に財産の管理や運用を託し、その利益は親(受益者)自身が受け取るという仕組みです。

ポイントは以下の通り:
– 金銭の「所有権」は受託者(子)に移る
– しかし「自分のために使うこと」はできない
– 信託専用の口座(信託口口座)で分別管理が必要
– 親が引き出すことはできなくなる

信託は親が元気なうちに契約を結ぶ必要があります。また、制度設計によっては、将来的な相続対策の一環としても機能するため、制度理解と専門家の関与が不可欠です。

【財産管理委任契約:手軽だが限界あり】
民法上の委任契約で、親が子に「銀行手続き」などを委ねる形もありますが、実務的にはあまり機能しません。

金融機関では本人の意思確認を重視するため、委任状があっても「本人の同行」を求めるケースが多く、「結んだだけでは使えない契約」になることもしばしばです。

【任意後見制度:判断能力が落ちたあとに効力】
任意後見は、将来、親の判断能力が低下したときに備えて、事前に後見人を決めておく制度です。ただし、後見がスタートするのは“親の判断能力が低下してから”なので、元気なうちは子が代わりに財産を管理することはできません。

【専門家に相談すべき理由】
いずれの制度も「親が元気なうちに契約を結ぶ必要がある」こと、そして「法務・税務両面でのリスク」が存在する点は共通しています。

特に信託は税務上の取り扱いも複雑で、思わぬ課税や贈与と見なされるリスクもあります。
「子に託したつもりが、税務署から『贈与』と判断される」──そんな事態を防ぐためにも、契約前には司法書士や税理士など、信託・後見に詳しい専門家に相談することを強くおすすめします。

【まとめ:早めの備えが安心をつくる】
「何かあったときに困らないように」
「親の生活を安心して支えたい」
そんな想いを叶えるためには、信託や任意後見といった法制度を、正しく理解し、適切に活用することがカギです。

特に、公務員の方のように時間や責任が限られる立場では、元気なうちからの準備が“親子にとっての安心”につながります。

──将来の困りごとを、今、選択と対話で防いでいきましょう。

(執筆:小林 匠|税理士・CFP®・クレメンティア税理士事務所)