
福祉の現場では、国のDX推進によりテクノロジー活用が加速しています。
記録の電子化、AIによる入力支援、見守り機器の導入…。
一方で、自治体・事業所の規模や環境によって導入スピードは大きく異なるのが実情です。
今回は、厚生労働省が公表する資料を踏まえながら、
**公務員として押さえておきたい視点・課題・これからの役割** を整理します。
“制度の運用者”としての立場から全体像を俯瞰できる内容にまとめました。
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## 1. 介護分野 ― ICT定着後のテーマは「データ連携」
介護現場では、記録・請求業務はすでにICT化が標準化。
最近は、
– AI音声入力
– 自動文章生成
– LIFEとのデータ連携
– 記録・請求・ケアマネとの共有
など、**データがつながる仕組み** が広がっています。
ただし、テクノロジー普及率をみるとまだ発展途上です。
– 見守り・コミュニケーション支援:30.0%
– 入浴支援・介護業務支援・移乗支援:1割程度
– 移動支援:1.2%
– 排泄支援:0.5%
そして2025年4月からは新たに
①機能訓練支援
②食事・栄養管理支援
③認知症生活・ケア支援
の3分野が追加され、重点領域はさらに拡大します。
### ▶ 公務員への示唆
**制度改定と現場導入のギャップを埋める“支援設計”がより重要に。**
補助金の使い方、事業所のITリテラシー、地域格差…。
制度だけでは進まない領域こそ自治体の裁量が効きます。
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## 2. 障害福祉分野 ― 導入事例の積極公開で“成功モデル”を共有
2025年6月策定の「省力化投資促進プラン―障害福祉―」では、
AI・ロボット・DXの導入が明確に位置付けられています。
2022年度の検証では、
– 巡回・移動:▲25.6分
– 記録・文書作成:▲117.4分
– **1日の業務時間全体で▲60.2分**
という成果が示されています。
これは、
**「省力化=単なる業務削減ではなく、直接支援に時間を再配分できる」**
ことを意味します。
### ▶ 公務員への示唆
事例が続々と公開される今こそ、
**“導入できる事業所”と“まだ準備が整っていない事業所”の実態把握** が不可欠です。
自治体は、「事例紹介」という“横展開の仕組み”をどう設計するかが鍵になります。
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## 3. 児童福祉分野 ― ICTはまだ発展途上、今年度は“設備導入フェーズ”
保育所では依然としてアナログ運用が根強く、
書類作成や連絡業務で職員の負担が大きい現状があります。
国は
**「2025年度にICT導入率100%」**
を目標に掲げ、以下の導入を推進中です。
– 保育計画・記録
– 保護者連絡
– 登降園管理
– キャッシュレス決済
– 午睡センサー
– AI見守りカメラ
さらに2026年度以降は、
– 自治体とのオンライン手続き
– 保活の情報連携基盤
など、自治体側のDXも求められてきます。
### ▶ 公務員への示唆
保育DXは“制度側(自治体)と現場側(事業者)が同時に変わる”二層構造。
だからこそ、
**・運用ルールの明確化
・保護者説明のサポート
・現場負担を増やさない設計**
が自治体の腕の見せどころになります。
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## 4. 全体を通して ― 公務員は「現場と国をつなぐハブ」に
介護・障害・児童のいずれにも共通するのは、
### 「デジタル化は設備を入れたら終わりではなく、運用で成果が決まる」
ということです。
そして、運用の質は
**行政の支援・調整・情報提供の仕組み**
に大きく左右されます。
私はこれまで多くの組織の経営支援に関わってきましたが、
制度が存在しても、現場が使いこなせなければ“絵に描いた餅”になる構造は、
民間でも行政でも変わりません。
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## ■ まとめ:公務員が担う“価値”が最も大きくなる領域
– 介護:データ連携が次の鍵
– 障害:成功事例による横展開
– 児童:ICT導入100%に向けた支援フェーズ
– 全領域:運用設計と現場支援が、DXの成否を左右
そして何より、
### 公務員が果たす役割は「制度を届けること」ではなく
### **“制度を使える状態にすること”**
テクノロジーが進むほど、
現場支援や調整の価値はむしろ増えていきます。
DXが「現場の負担軽減」と「サービスの質向上」につながるよう、
制度・現場・利用者をつなぐ視点をぜひ大切にしていただければと思います。