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相続財産を寄附したい公務員へ——「遺志」と「税制」を両立させる実務ガイド

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2025.10.30

「亡くなった配偶者の想いを、社会に役立つ寄附で形にしたい」。その願いを叶えるには、相続・寄附・税務を“期限内に正しい順番”で進めることが不可欠です。本稿では、公務員の皆さま向けに、相続財産の寄附で押さえるべき法務・税務・実務の勘所を整理します。

■1. 遺志実現の前提——遺言の有無が出発点
生前に「寄附したい」との意思表示があっても、遺言が無ければそのままでは実行できません。相続人(本件では夫と甥姪)がいったん相続し、相続人の判断として寄附する流れになります。将来の確実性を高めるには、公正証書遺言で「寄附先・対象資産・割合・目的」を特定しておくのが最善です。

■2. 相続税が非課税になる寄附——3つの必須条件
相続人が行う寄附でも、次の3条件を満たすと相続税は非課税にできます。
(1) 寄附するのは「相続で受け取ったそのままの資産」であること(売却→現金化して寄附は原則NG)
(2) 相続税の申告期限(相続開始から10か月以内)までに実行
(3) 寄附先が「国・地方公共団体」または「特定の公益法人等(公益社団・財団、学校法人等)」であること
※対象かどうかは団体の法人格・認定区分を要確認。迷えば団体の所轄庁や税理士へ。

■3. よくある落とし穴——“原型性”の喪失
非課税の核心は「受け取った資産の原型を保った寄附」。たとえば相続した株式を一度売って現金寄附にすると非課税が崩れます。株式や不動産のまま、受け入れ可能な寄附先を探す段取りが重要です(受入可否・評価・事務負担の事前調整が肝)。

■4. 不動産・有価証券寄附の税務——みなし譲渡課税の注意
個人が資産を寄附すると、原則「時価で譲渡した」とみなされて譲渡所得課税の対象になり得ます。ただし、一定の公益目的寄附については非課税とする特例があります。適用要件(寄附先の範囲、期限、手続)を満たせるかを早期に確認しましょう。評価・測量・名義変更など実務も時間を要します。

■5. 所得税・住民税の寄附金控除との関係
相続税の非課税と、相続人個人の「寄附金控除」は別物です。相続財産のまま寄附して相続税を非課税にしたうえで、(制度要件を満たす場合は)所得税・住民税の控除も狙えるケースがあります。控除枠・適用対象・証憑(受領書)の取り扱いを、寄附前に必ず確認してください。

■6. 公務員だからこそ——倫理・利益相反の観点
・ご自身の所属機関や所管団体への寄附は、利益相反や誤解を生む恐れがあります。勤務先の寄附受入ポリシーやコンプライアンスを事前に確認。
・職務権限に関連する団体への寄附・あっせん・広報は慎重に。職務公正の観点で私的行為との線引きを明確に。
・「ふるさと納税」とは制度趣旨・税効果・手続が異なります。混同しない運用を。

■7. 実務の進め方(10か月タイムライン)
①遺産分割と資産棚卸(寄附候補資産の特定・原型維持の可否)
②寄附先の選定・事前交渉(受け入れ可否、資産種類、受領書式)
③税務設計(相続税非課税/譲渡課税特例/寄附金控除の適用要件)
④実行(名義移転・受領書取得)→⑤相続税申告・必要書類添付
※不動産は評価・登記、株式は移管・名義書換に時間を要するため前倒し必須。

■8. 将来に備える設計——“想い”を制度化する
・公正証書遺言で具体化(遺贈寄附/受遺者指定)
・遺言執行者の指定、予備寄附先の設定(受入不可リスクに備える)
・信託の活用(死亡後に自動で寄附実行等)も検討余地あり

まとめ:
寄附は「善意」だけでは最適解に届きません。相続税の非課税、みなし譲渡課税の例外、所得・住民税の控除——三層の制度を、“原型維持”と“10か月”の軸で設計すること。公務員としての倫理配慮も忘れず、想いと制度を両立させましょう。

▼チェックリスト(実行前に)
□ 寄附先は国・地方公共団体・特定公益法人等か
□ 相続財産の原型を保って寄附できるか
□ 10か月以内に完了できる実務工程か
□ みなし譲渡課税の例外適用見込みはあるか
□ 受領書・添付書類の準備は万全か
□ 公務員として倫理・利益相反の懸念はないか