
「父の賃貸不動産を相続するか迷っている。その間に入ってくる家賃は誰のもの?」
相続相談の現場で非常によくある質問です。
特に、公正証書遺言で“特定の財産を特定の相続人に相続させる”と定められている場合、
その財産の「収益(賃料・利息など)」が誰に帰属するのかは誤解されやすいポイントです。
今回は、相続人の立場で必ず知っておきたい「遺言と賃料の関係」を実務ベースで解説します。
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## 1. 遺言で指定された不動産は「相続開始時点」で承継される
公正証書遺言に
**「この賃貸不動産を相談者に相続させる」**
と明記されている場合、その効力は大きく、
**不動産の所有権は、相続開始時(=お父様が亡くなった時点)で、あなたに移転します。**
つまり、
– 相続するかまだ迷っている
– 手続き前で登記がまだ
– 他の相続人とも話し合っていない
という状況でも、法律上は
**すでにその不動産の“所有者はあなた”である**
という扱いです。
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## 2. では、相続を決めるまでの「賃料収入」は誰のもの?
結論はシンプルです。
▶ **すべてあなたのもの(遺言で指定された相続人)**
理由は、
**所有権が相続開始時点であなたへ移っているため、以降の賃料もあなたに帰属する**
という法的構造によります。
未分割状態における「法定相続分での按分」とは全く別のルールが適用される点が重要です。
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## 3. 「相続するか迷っているのに賃料が入る」と不安な場合は?
「相続放棄をするかもしれないのに、賃料を受け取ってもいいの?」
と不安に思う方もいます。
ここで重要なのは次のポイントです。
### ●相続放棄をするなら、賃料収入の扱いに注意
相続放棄は「相続開始を知った日から3か月以内」。
もし放棄を選ぶなら、
**賃料を自分の利益として使うことは避ける**
のが安全です。
受け取った賃料は“仮預かり”として保管しておき、
放棄する場合は「相続財産の管理」として適切に扱う必要があります。
※賃料を積極的に使ってしまうと、
「相続を承認した」とみなされるリスクがあります。
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## 4. 遺言通りに相続したくない場合はどうなる?
遺言によって「あなたへ相続させる」と定められていたとしても、
相続人全員の合意があれば、
**遺言とは異なる遺産分割協議を成立させることが可能です。**
つまり、
– 不動産を別の相続人が引き継ぐ
– 賃料収入を分ける
– 売却して分配する
といった柔軟な選択肢も取れます。
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## 5. 実務で押さえておくべきポイント(まとめ)
1. **遺言で指定された不動産は、相続開始時点であなたのものになる。**
2. **その後の賃料は基本的にあなたの収入となる。**
3. **相続放棄を検討するなら賃料の扱いに要注意。**
4. **全相続人の合意があれば遺言と異なる分割も可能。**
5. **迷う場合は“賃料の保全”をしながら専門家へ相談するのが安全。**
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## おわりに
相続は「財産をどう分けるか」だけでなく、
「その財産が生み出す収益をどう扱うか」も重要な論点です。
特に賃貸不動産は“動き続ける財産”であるため、
遺言との関係を正しく理解しておくことで、
トラブルを未然に防ぐことができます。
相続放棄・遺言内容の取り扱い・賃料収入の保全など、
判断に迷う局面は多いと思いますので、
どうぞ早めにご相談ください。
あなたとご家族の想いに寄り添いながら、最適な道筋をご一緒に整理してまいります。