
相続人の方からよくいただく質問に、
「空き家特例を使いたいが、買主が取り壊すときの費用は“対価”に入るの?」
というものがあります。
実はこの点、税務上は明確に「譲渡の対価に含まれる」とされています。
今回は、空き家特例の仕組み・今回の改正のポイント・実務上の注意点を、税理士として分かりやすく解説します。
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# 1. 空き家特例の基本
相続人が取得した“旧耐震基準(昭和56年5月31日以前)”の空き家またはその敷地を売却した場合、
**譲渡所得から最大3,000万円控除できる特例**が「空き家特例」です。
適用期限は **令和9年12月31日まで**。
以前は「売主(相続人)が空き家を取り壊して更地を売る場合」だけが対象でしたが、
**令和5年度改正(令和6年1月1日以降)から、買主が取り壊すケースも対象**になりました。
これにより、相続人側の負担が減り、取引の幅も広がっています。
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# 2. 最大のポイント:「譲渡の対価1億円以下」の判定
空き家特例を使うためには、
**譲渡の対価が1億円以下であること** が必須要件です。
ここで問題になるのが、
**買主負担の取壊し費用をどう扱うか?**
結論は以下の通りです。
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# 3. 買主負担の取壊し費用は「譲渡の対価」に含まれる
措置法通達35-19では、
「譲渡の対価」とは名称にかかわらず、実質的に取引の対価となるもの全てを含む
とされています。
つまり、
– 空き家特例を前提に売主・買主が価格を交渉した
– 取り壊し費用を買主が負担する前提で売買価格が決まった
こうした場合、その取壊し費用は
**本来は売主が負担すべき費用=譲渡の対価に含まれる**
と扱われます。
令和5年度改正で「買主取り壊し方式」が特例の対象に加わりましたが、
**“譲渡の対価の範囲”は変更なし。従来通り取壊し費用も含めて判定**
という点は要注意です。
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# 4. 実務上の注意点(特に相続人の方へ)
相続人の方が特に気をつけるべきポイントは以下の通りです。
### ●① 「売買価格+買主負担の取壊し費用」で1億円以下か確認
売買契約書に「買主が取り壊す」と書いてあるだけで満足してはいけません。
金額を合算して1億円を超えれば、**特例は使えません**。
### ●② 確定申告に必要な書類
売主(相続人)は申告時に以下を提出します:
– 売買契約書(取壊し費用の負担や金額が分かる部分)
– 譲渡の対価が1億円以下であることを示す資料
必要書類がそろっていないと、特例が否認される可能性があります。
### ●③ 事前に税理士へ確認するのが安全
特に「取壊し費用の扱い」は税務署がしっかり見るポイントです。
売却が決まったタイミングで相談するのがもっとも確実です。