
「娘しかいないので、家名を残すために孫を養子にしたい」
──このような相談を、公務員の方から受けることが増えています。
家を継ぐ、墓を守る、家系をつなぐ──日本的な価値観の中で大切な選択ですが、
“孫養子”は相続税の世界では注意が必要な制度です。
今回は、**「孫養子と相続税」**について、制度の仕組みと税務上の影響を整理します。
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【孫養子とは】
孫養子とは、娘や息子の子(=孫)を養子に迎えることを指します。
たとえば、
– あなた(祖父)
– 娘A
– 娘Aの子D
という関係で、Dをあなたの養子とする──これが「孫養子」です。
法律上はDが「あなたの子」となり、相続の順位も実子と同じになります。
家名や墓を継がせるために行うことが多いのですが、**税法上は“節税対策とみなされやすい”**という側面があります。
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【相続税における養子の扱い】
養子縁組をすると、民法上は相続人の数が増えますが、
**相続税法では「法定相続人」として認められる養子の数に制限**があります。
– 実子がいる場合:養子は1人まで
– 実子がいない場合:養子は2人まで
これは、養子を増やすことで相続人の数を増やし、
「基礎控除額」や「生命保険の非課税枠」を拡大させる節税スキームを防ぐためのルールです。
したがって、ご相談のように実子(娘A・B・C)がいる場合、
孫Dを養子にしても、**相続税上カウントされる養子は1人だけ**になります。
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【孫養子は“2割加算”の対象】
孫養子がもう一つ注意すべき点が、「相続税額の2割加算」です。
本来、孫は「一世代下」であり、娘Aが相続し、その後Aの死亡時にDが相続する──という二段階が想定されています。
ところが孫養子にすると、相続が一気に“祖父 → 孫”へ飛ぶ形になります。
これにより、**D(孫養子)の相続税は2割増し**となります(相続税法第18条)。
制度上、「世代飛ばしによる節税防止」が目的です。
なお、孫が**代襲相続人(親が先に亡くなっているケース)**として相続する場合は、この2割加算の対象にはなりません。
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【家名を継ぐ目的なら「説明と共有」を】
孫養子は、家名を守るという尊い目的であっても、
結果的に相続の構図を変えるため、他の相続人の取り分が減少することになります。
とくに兄弟姉妹間で「なぜ孫が相続人になるのか」が理解されないまま進めると、
感情的なトラブルにつながるケースも少なくありません。
ご本人が元気なうちに、**「なぜ孫を養子にするのか」「どう分けたいのか」**を明確に伝え、
公正証書遺言などで整理しておくことが、家族の安心を守る第一歩です。
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【公務員の方へのポイント】
公務員の方は、
– 生涯安定した収入があり、財産形成も堅実である一方、
– 相続時に不動産や金融資産の評価額が一定以上になるケースが多く、
「思わぬ相続税の発生」に直面することがあります。
孫養子を検討する場合は、**感情面+税務面+相続人間の調整**を同時に見据えた設計が必要です。
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【まとめ】
✅ 孫養子は「家名を継ぐ」には有効だが、「相続税対策」には注意が必要
✅ 実子がいる場合、相続税上カウントされる養子は1人だけ
✅ 孫養子の相続税は2割加算の対象
✅ 目的と意図を家族で共有し、専門家とともに設計を
「家を守る」という想いを“争族”にしないために。
制度の理解と丁寧な準備が、次の世代を守る最善の相続対策になります。