
「退職後の余裕資金でビットコインを保有している」
「最近判断力が落ちてきて、相続時の扱いが心配」
──そんなご相談が増えています。
暗号資産(仮想通貨)は新しい資産形態ですが、**相続の世界ではすでに“課税対象”として明確に位置付けられています。**
今回は、公務員の方が保有する暗号資産を「相続」する際に押さえておくべき税務上のポイントを整理します。
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【1. 仮想通貨も相続税の対象】
相続税法では、
> 「金銭に見積もることができる経済的価値のある財産」
はすべて相続税の対象になります。
ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産は、**決済手段としての財産的価値**を持ち、
「お金に換算できる」ため、他の金融資産(預金・株式など)と同様に課税対象となります。
つまり──
✅ 現金や預金と同じく「遺産」として評価される
✅ 相続時点の価格を基準に相続税が課税される
という仕組みです。
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【2. 評価額の決め方】
暗号資産の評価は、「課税時期(被相続人の死亡日)」における時価で行います。
評価方法には大きく2通りあります:
① **活発な市場が存在する場合**
取引所などで日常的に売買が行われ、価格が公表されている場合には、
その取引価格(売却価格)を基準に評価します。
👉 多くのビットコイン・イーサリアムなどがこの対象です。
② **活発な市場が存在しない場合**
値動きが不安定で市場取引がほとんどない暗号資産は、
専門家の意見や売買実例などを参考に「個別評価」します。
このように、**取引所ごとに価格差がある場合**も少なくなく、
相続税評価にあたっては、**どの取引所を基準にするか**が実務上のポイントになります。
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【3. 相続税の申告で注意すべきこと】
暗号資産の相続では、次のようなトラブルが起こりやすいのが現実です。
– 🔹 被相続人が取引所のアカウント情報を家族に伝えていなかった
– 🔹 ウォレットのパスワードが不明で、実質的に取り出せない
– 🔹 相場変動が激しく、相続時の評価額が判断しづらい
これらは「相続財産があるのに、手続きができない」というリスクにつながります。
相続人が暗号資産を確認できないまま申告を終えた場合、**後日「申告漏れ」として追徴課税を受ける**可能性もあります。
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【4. 生前にできる3つの備え】
公務員として堅実に資産を形成してきた方ほど、暗号資産を少額でも保有しているケースが増えています。
その場合は、次の3点を生前に整理しておくことが重要です。
1️⃣ **保有資産の一覧を作る**
取引所・保有数・ウォレット情報をまとめ、信頼できる家族に伝える。
2️⃣ **遺言書に明記する**
「暗号資産を含むデジタル財産」を明確に相続対象として指定する。
3️⃣ **税理士・専門家に相談して評価方針を確認する**
特に価格変動が激しい資産ほど、**「相続発生時の評価ルール」**を事前に把握しておくことが大切です。
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【5. 売却と相続、どちらが得か?】
暗号資産を**生前に売却**すれば所得税(雑所得)として課税されますが、
**相続まで保有すれば相続税の対象**になります。
– 生前売却:利益部分に最大55%の所得税・住民税
– 相続:全体価値に対して最大55%の相続税(控除・特例あり)
つまり、「税率」だけで判断するのではなく、
👉 他の資産とのバランス
👉 相続人の税負担能力
👉 将来の相場変動リスク
を踏まえて、**総合的に設計すること**が必要です。
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【まとめ:デジタル資産も“遺す時代”へ】
✅ ビットコインなど暗号資産も相続税の対象
✅ 評価は「死亡日時点の市場価格」で算出
✅ アカウント情報・パスワード管理が最大のリスク
✅ 生前の可視化と専門家相談が必須
相続の現場では、「存在が分からなかった暗号資産」が
のちに発覚してトラブルになるケースが急増しています。
デジタルの財産こそ、“紙で可視化”しておくことが、
家族を守るための最も現実的な相続対策です。
(執筆:小林 匠|税理士・CFP®・クレメンティア税理士事務所)