staffblog スタッフブログ

亡き養親との関係を法的に終わらせたい──「死後離縁」という制度と相続への影響

スタッフブログ

2025.10.27

「養親が亡くなったあと、親族との関係に苦しんでいる」
そんなご相談が少しずつ増えています。
血縁だけでなく“法的な親族関係”が残ることで、心の整理がつかず、生活にも支障をきたすケースがあるのです。

今回は「死後離縁(しごりえん)」という制度について、
その手続き・注意点・相続への影響を、相続専門税理士の立場からわかりやすく解説します。

【死後離縁とは?】
「死後離縁」とは、養親が亡くなった後に、養子が家庭裁判所に申し立てをして
**亡くなった養親との法的な親族関係を終了させる手続き**のことです(民法729条)。

離縁が認められると、養親の親族──つまり義理の祖父母・叔父叔母などとの法律上のつながりも消滅します。
心情的な距離だけでなく、**法的な距離**を取ることができる制度です。

ただし、離縁には家庭裁判所の許可が必要であり、
「遺産は受け取るが扶養や祭祀を避けたい」といった**不純な動機**では認められない点に注意が必要です。

【死後離縁の流れ】
① 養子本人が、住所地を管轄する家庭裁判所に申し立て
(15歳未満なら法定代理人が申立て)
② 家庭裁判所が審理を行い、正当な理由が認められれば許可審判
③ 審判確定後、「審判書謄本」と「確定証明書」を取得
④ これらの書類を添えて、市区町村役場に離縁届を提出

※ 審判に不服がある場合は、2週間以内であれば不服申立てが可能です。
※ 書類準備や期間管理が複雑なため、司法書士・弁護士への依頼も検討を。

【離縁後の「氏(姓)」の扱い】
離縁すると、原則として養子縁組前の氏に戻ります。
ただし、次のような例外もあります:

– **縁組から7年以上経過していれば**、3ヶ月以内の届け出で縁組中の氏をそのまま使用可
– **7年未満の場合**は復氏が原則。ただし、家庭裁判所の許可があれば、引き続き同じ氏を名乗ることも可能です

名前が変わることによる社会的な不利益が大きい場合には、必ずこの点も事前に相談しましょう。

【相続への影響は?】
もっとも気になるのが、「死後離縁をしたら相続できなくなるのでは?」という点です。
結論から言うと、**すでに発生した相続には影響しません。**

つまり、
– 養親の死亡時に発生した相続については、離縁後も相続人の地位を失いません。
– 亡き養親の遺産を正当に相続したうえで、その後に法的な親族関係だけを終了させることが可能です。

これは、心の整理と生活の安定を両立できる大切なポイントです。

【まとめ:心の平穏を取り戻すための法的整理】
「親族」という言葉には、温かさだけでなく、時に重さも伴います。
養親が亡くなった後、義理の親族との関係が精神的負担となる場合、
死後離縁は“法に基づいて自分を守る手段”として有効です。

離縁しても相続権は失われません。
大切なのは、**心の負担を軽くしながら、法的にも整理する勇気**を持つことです。

もし同じような状況で悩んでいる方がいれば、
まずは家庭裁判所や専門家に相談してみてください。
その一歩が、人生を立て直すきっかけになるはずです。

(執筆:小林 匠|税理士・CFP®・クレメンティア税理士事務所)