
不動産を生前に共有名義にするのは得策?相続トラブル回避のための判断ポイント
近年、「自分の死後、相続で揉めてほしくない」と考える方が増え、生前に不動産を共有名義にすることを検討するケースが目立ちます。親と子、あるいは夫婦で名義を分けておけば、スムーズな財産移転ができるのでは?と期待されがちですが、実際にはメリット・デメリットの両面があります。
では、不動産を生前に共有名義にするのは本当に得策なのでしょうか?この記事では、その判断に必要なポイントを解説します。
結論:生前の共有名義化は一部に有効だが、慎重な検討が必要
不動産を生前に共有名義にすることには、「相続税対策」や「財産の可視化」といったメリットがありますが、安易に行うと、将来的なトラブルの火種にもなり得ます。共有名義にすることで、不動産の処分や管理に制約が生まれ、相続後に争いの原因になるケースも少なくありません。
したがって、共有名義は“相続対策の一手段”としては有効ですが、必ずしも「得策」と言い切れるものではなく、慎重な判断と専門家の助言が必要です。
共有名義にするメリットと法的根拠
生前に不動産を共有名義にする主なメリットは以下の通りです。
– 贈与による持分移転を行えば、相続発生前に財産を分散できる
– 将来の相続税評価額を下げられる可能性がある(共有持分ごとに評価)
– 所有権が明確になることで、相続人間の不公平感を軽減できる
たとえば、子どもに不動産の半分の持分を贈与すれば、その分は相続財産から除外されます。贈与税の非課税制度(例:暦年贈与110万円、相続時精算課税制度)を利用すれば、一定の節税効果も見込めます。
ただし、登記簿上の共有名義は、所有者全員の合意がないと売却・変更ができません。これは、民法第251条「共有物の変更」および第252条「共有物の管理」に基づきます。
よくある誤解
「共有名義にしておけば、相続争いは起きない」と考える方も多いですが、これは大きな誤解です。たとえば、次のようなケースがあります。
– 子ども2人のうち1人と共有名義にしたことで、他の子との間に不公平感が生じ、関係が悪化
– 不動産を売却したいが、共有者の1人が反対して話が進まない
– 共有持分だけを相続することで、管理費や税金負担だけが残る
こうした誤解やリスクを避けるためにも、共有にする意図と今後の運用方針を家族全員で共有しておくことが大切です。
実務での注意点
実際に不動産を共有名義にする場合は、以下の点に注意しましょう。
– 登記変更には登録免許税や司法書士費用が発生する
– 贈与であれば、贈与税の申告義務や税額試算が必要
– 住宅ローンが残っている場合、金融機関の承諾が必要になるケースも
– 共有持分の割合は慎重に決める(後々の分割や相続に影響)
また、将来の相続時に不動産を分割するのが困難な場合、共有名義にしていたことで逆に「共有解消」が課題になることもあります。
専門家の支援で失敗を防ぐ
不動産の共有名義化は法務・税務両面の知識が不可欠です。行政書士や司法書士は登記や契約書類の整備を支援し、税理士は贈与税・相続税の計算を正確に行います。また、将来の相続に関しては、遺言書の作成や信託の活用など、他の対策も含めて検討するのが望ましいです。
特に、家族構成が複雑な場合や相続人同士の関係に不安がある場合は、早めに専門家に相談し、最適な対策を選ぶことが重要です。
まとめ:共有名義は万能ではない、慎重な判断と対話がカギ
不動産を生前に共有名義にすることには一定のメリットがありますが、それ以上に「共有ゆえの制約」や「将来のトラブルリスク」もあります。相続対策として安易に選ぶのではなく、家族構成や資産全体のバランスを踏まえ、専門家の意見を聞きながら慎重に検討しましょう。
相続や不動産管理に不安がある方は、一度専門家にご相談いただくことをおすすめします。