
令和6年度(2024年度)のふるさと納税受入額は**1兆2,728億円**。
5年連続で過去最高を更新し、制度はかつてない規模に拡大しています。
一方で、令和7年10月からは**仲介サイトによるポイント付与が全面禁止**へ。
「寄附を集めること」から「制度の本質をどう再構築するか」へ、
全国の自治体が試される局面に入りました。
この記事では、公務員(特に自治体職員)の皆さんに向けて、
制度の変化がもたらす実務・戦略上の影響を整理し、
これからの「地域間競争のあり方」を考えてみたいと思います。
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## 1.ふるさと納税の成長と、その“裏側”
総務省の調査によると、令和6年度のふるさと納税受入額は**約1兆2,728億円**。
寄附件数は**約5,879万件**、控除適用者は**約1,080万人**と、制度創設以来の過去最高です。
地域別では、
1位:北海道(約1,799億円)
2位:宮崎県(約583億円)
3位:兵庫県(約582億円)
と、返礼品の魅力が高い自治体が上位を占めています。
一方で、寄附が伸び悩む自治体も多く、「自治体間格差」は年々拡大しています。
注目すべきは、**経費率の高さ**です。
返礼品・事務・決済関連費用を合わせた総経費は**約5,901億円**。
寄附金の**46%が経費として消化**されている計算になります。
つまり「寄附の半分が地域に届いていない」という現実です。
表面的な数字の拡大とは裏腹に、制度運営の効率性や公平性には課題が残ります。
ここにこそ、公務員の「制度運営力」や「政策設計力」が問われています。
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## 2.ポイント付与禁止がもたらす変化
2025年(令和7年)10月から、楽天やPayPayなど仲介サイトでの**ポイント付与が全面禁止**となります。
総務省は「返礼品と同様の経済的利益」として規制を強化しました。
これまで寄附者にとって「返礼品+ポイント還元」は強力な動機でした。
禁止後は、寄附額が一時的に鈍化することが予想されます。
しかし見方を変えれば、**自治体にとっては“本来の目的”を取り戻すチャンス**でもあります。
すなわち、「返礼競争」から「地域共創」への転換です。
今後注目されるのは次の3つの方向性です。
1. **クラウドファンディング型**
特定の事業(例:学校の図書充実、医療機器導入)に目的を明示して寄附を募る方式。
地域の課題解決を可視化できるため、共感型寄附が増加中。
2. **体験型・関係人口型**
旅行・農業体験・地域交流など、モノより“体験”に重きを置いた返礼。
寄附者が「地域のファン」になるきっかけを作れる。
3. **デジタル発信・自治体ブランディング**
SNS・動画・自治体サイトでの情報発信力が、寄附額に直結する時代へ。
“返礼品の魅せ方”より“自治体のストーリー”が問われます。
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## 3.公務員が押さえておきたい「3つの視点」
では、自治体職員としてどのような対応が求められるのでしょうか。
次の3つの視点が重要になります。
### (1)財務視点:寄附金の「純増効果」を見極める
ふるさと納税で得た寄附が、どの程度実質的な収入増につながっているのか。
返礼品・事務経費を除いた**純寄附額**を把握することが肝要です。
経費率を意識した財務管理が、自治体運営の健全性を左右します。
### (2)政策視点:寄附の“使い道”で共感を集める
寄附の多くは「子ども・子育て」「教育・人づくり」に集中。
これは単なる人気分野ではなく、**寄附者が“未来への投資”を求めている表れ**です。
施策の設計段階から「寄附者の共感」を意識することが求められます。
### (3)広報視点:地域課題を“物語化”して伝える
クラウドファンディング型の寄附が伸びている背景には、「目的が明確で共感できる」点があります。
単なる返礼品リストではなく、「なぜその事業に寄附が必要なのか」を語るストーリー設計が鍵です。
自治体広報の役割は、制度説明ではなく“感情を動かす発信”へと変わりつつあります。
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## 4.制度の「成熟期」に立つ今こそ
ふるさと納税は、地方創生の一翼を担う仕組みとして定着しました。
しかし今後は、制度の“量的拡大”ではなく“質的深化”が問われます。
経費率・公平性・地域格差といった構造的課題を放置したままでは、
制度そのものへの信頼が揺らぐ恐れがあります。
公務員の役割は、「寄附額を競う」ことではなく、
「地域の価値を見える化し、共感を育てる」ことへ。
ふるさと納税を通じて、“応援される地域経営”をどうデザインするか。
まさに、自治体の政策力が試されるステージに入っています。
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## おわりに
ポイント付与禁止は、一見マイナスのようでいて、
自治体が“本来の目的”に立ち返る好機でもあります。
寄附の拡大よりも、寄附の「意味」をどう再定義するか。
公務員一人ひとりの視点と工夫が、地域の未来を左右します。
> **「返礼品」から「共感品」へ。**
> ふるさと納税の次のステージは、制度ではなく“人の想い”が主役です。