
「現金で保管していれば分からないだろう」
「家族名義に移しておけば問題ないはず」
こうした“よくある思い込み”が、どれほど大きな代償につながるのか。
今回は、国税庁が公表している**実際の相続税調査事例**をもとに、相続人の立場で必ず知っておくべきポイントを整理します。
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■ 事例1:現金で保管すればバレない、は通用しない
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【概要(高松局)】
・相続開始前に、被相続人名義の預金から多額の現金を引き出し
・相続人宅の金庫で保管
・相続税申告から意図的に除外
調査時、相続人は
「寄附して残っていない」
と説明しましたが、寄附先を答えられず不審点が拡大。
結果として相続人宅の現況調査が行われ、
👉 **金庫から多額の現金が発見**
最終的に、
「自宅で保管していれば税務署に把握されないと思った」
「税理士にも存在を隠していた」
と認めています。
【結果】
・増差課税価格:約2億5,000万円
・追徴税額:約1億2,000万円(重加算税あり)
▶ ポイント
**現金であっても、資金の流れは必ず追跡されます。**
「どこにあるか」ではなく「誰の財産か」が判断基準です。
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■ 事例2:家族名義に移せば安全、は完全な誤解
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【概要(名古屋局)】
・被相続人の預金を、相続人や家族名義の口座へ移動
・相続税が基礎控除以下になるよう調整
・税務署の照会にも「基礎控除以下」と虚偽回答
・相続税の申告自体を行わず
調査では、
・出金理由
・家族口座の原資
について曖昧な説明が続き、現況調査を実施。
その結果、
👉 家族全員の預金状況を記したノートが発見
👉 意図的な財産移転が明確に
【結果】
・増差課税価格:約7億2,000万円
・追徴税額:約4億3,000万円(重加算税あり)
▶ ポイント
**名義変更=贈与・相続対策にはなりません。**
実質的な財産の帰属が最重要視されます。
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■ なぜ、ここまで把握されるのか?
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相続税調査では、
・被相続人の預金取引履歴
・多額の現金引出し
・家族名義口座との資金移動
・生活実態との整合性
が、徹底的に突き合わせられます。
さらに最近では、
✔ 過去の申告データ
✔ 金融機関情報
✔ AIによる分析
が組み合わされ、「隠したつもり」はほぼ確実に見抜かれます。
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■ 相続人が本当に気をつけるべきこと
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これらの事例から、相続人として学ぶべき教訓は明確です。
✔ 現金でも、名義預金でも、隠せない
✔ 意図的な除外は「重加算税」の対象
✔ 税理士に事実を隠すのが最悪の選択
✔ 調査後の負担は、申告時の何倍にもなる
「バレなければいい」という発想が、
**最も高いコストを生む**のが相続税です。
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■ まとめ:相続税は“正直者が一番得をする”
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相続税においては、
・正確に財産を把握する
・分からない点は専門家に開示する
・グレーな判断をしない
この姿勢が、結果的に
✔ 追徴課税を防ぎ
✔ 家族間のトラブルを防ぎ
✔ 精神的な負担も軽くします。
「うちは大丈夫」と思った瞬間が、
最も危ないタイミングかもしれません。
相続は、**隠すものではなく、整理するもの**。
この事例を、ぜひご自身の教訓として活かしてください。